* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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竹馬の達人マリコを東独ツァイスの傑作レンズ、フレクトゴン50mmで撮る。下のライカ判28mmに近い画角だけど、ファインダーの見え方はまるで違う。思い切り絞ってもブレなかった。
Arsenal/Arax 60MLU + Carl Zeiss Jena Flektogon 50mmF4 FUJICHROME ASTIA100F Exposure Data:1/30sec. F16



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熟練のワザを子供たちに見せつけるマリコ(1人で遊んでないで貸してあげなさい)。
Leica M3 + Elmarit-M28mmF2.8 FUJICHROME ASTIA100F Exposure Data:1/60sec. F4



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ハッセルブラッド500C/Mボディをレンズマウント側から観る。マウント下部のふたつのボタンは向かって左がレリーズ(ロック機構付き)、右がレンズ脱着ボタン。マウント内側の下部に見えるのはレンズシャッターのレリーズ連動ピン。バッフル(フレアカッター)の奥に位置する可動ミラーは必要最小限のサイズで、この500C/Mの場合レンズの焦点距離が150mmを越えると「ミラー切れ」と呼ばれる視野の陰りが発生する。90年代半ば以降の機種ではミラーの動作を変更してこの欠点が解消された。ボディ底部の三脚座は専用のクイックシューに対応する。

スクエアフォーマットの誘惑 #11

 とかく趣味性に欠けるといわれがちなキカイだけど、僕にとってハッセルは「良い音がする」カメラである。それは初対面のスタジオでの印象が強いのかもしれない。たぶんあの時スタジオに響いていた独特のシャッター音は、大型ストロボのノイズとチャージの電子音とセットになって、このカメラのイメージを決めてしまったのだろう。
 じっさいに手にしてみても、ハッセルの音は他のカメラと違う。特に手元にある500C/Mの場合、まずピントフードの展開音がいい。カバーのノブをスライドさせると、格子柄がプレスされた3枚の薄い金属板が「シャカカッ」と立ち上がる(残念ながらヒンジで折り畳むようになった後年の機種では、この音は聞こえなくなってしまったけれど)。
 巻き上げの音も良い。クランクレバーを回すときの、あのチキキキ……というちいさな音だ。これはボディ内部に置かれたギア類が噛み合う音なのだけれど、複雑なギアの歯の一枚一枚が精密に噛み合う様子が、耳とプラスチックのノブをつまむ指先に伝わってくる。まるで機械式時計のリューズを回しているようだ。とはいえ、実際の撮影ではそんな感触を味わう暇はなく、シュルンと一気に回してしまう。考えてみればもったいない話である。
 この精密なギアの作動音はフィルムマガジンにも仕込まれている。ハッセルのフィルム装填はマガジンからインサートを引き抜き、フィルムを入れてスタートマークまで送った後にマガジンに装着、ボディ側のそれを小型化したようなクランクで一気に1コマ目まで送る方式で、この音と感触も絶品だ。中古のハッセルを手にしたらボディなんか磨く必要はない。むしろ期限切れフィルムを詰めてこの操作を味わっているほうがずっと愉しく、かつ有意義だと思う。
 余談だがハッセルのフィルムマガジンは中古でも高価(ボディより高いことが多い)である。だから2個も3個も揃えるのは大変だ。スタジオで湯水のようにフィルムを消費するプロと違って、アマチュアにはマガジン1個で済ませるひとも多い。そういう場合に迅速なフィルム交換の練習は大切だし、だいいちこのカメラを趣味で使うひとは余分なお金はレンズに回してしまうだろう。
 それはともかく、ハッセルの音といえばなんといってもレリーズ音である。あの独特の「シャカポン」という音。これはボディ後端に仕込まれた遮光幕*と大型のミラーが動作する際に発生するノイズなのだけど、品があるというよりもちょっと間の抜けた愛嬌のある音だ。理詰めで硬質な感触のシステムには似つかわしくないものの、僕はこういう部分に人間味を感じてしまう。

 まあ音で写真が撮れるわけではないし、設計者もそんなことは意図していなかっただろう。そういう些末な部分に趣味性を見いだしたところで、カメラが持ち主になびいてくれるわけでもない。撮影の道具としてのハッセルブラッドは、けっして扱いやすいカメラではないのだ。その操作には他のカメラにはないお約束がインストールされているのである。

●モデル:脊山麻理子


*注:500C/Mに代表されるレンズシャッター機は、初期の1600Fや後の2000シリーズ、そして現行の200系シリーズのフォーカルプレーンシャッターとおなじ位置に開閉式の遮光幕を装備している。これはレンズ脱着時の露光を防ぐため。


2004年07月21日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部