* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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目測でいちばん難しいのがこれくらいの撮影距離で、この写真もやや後ピン(ブレも入ってます ね)。被写体はアンモでお馴染み、印南紀世子さんの愛娘アニエスとクレア。
Voigtlander Vito-B + Color-Skopar 50mmF3.5 FUJICHROME Provia400F  (C)Keita NAKAYAMA



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往年のカラースコパーは現代でもじゅうぶん通用する描写力を持つ。逆光でコントラストを保つのはボディを含めた内面反射対策が行き届いているためか。絞り込める条件でもピントの位置を考える癖をつけよう。
Voigtlander Vito-B + Color-Skopar 50mmF3.5 FUJICOLOR New Pro400 (C)Keita NAKAYAMA



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西独フォクトレンダー社の傑作目測カメラシリーズ「ヴィトー」を代表する2機種(ヴィトーにはレンジファインダー機も存在するが、ごく少数)。右のフォールディング機は1949年に登場したVITO-IIで、戦前につくられたVITOのリメイク。左はその発展形として1954年に発売されたVITO-B。蛇腹を固定鏡胴に置き換え、ボディも小型化されてずいぶんモダンな外見となった。レンズは両機に共通で、いちはやくカラーの再現性を考慮した「カラースコパー」だ。ヴィトーはちいさな宝石のようなカメラで、特にVITO-Bはフォクトレンダーお得意のからくり仕掛けを楽しめる。目測入門機として使いやすく、またコレクション向けにも好適だろう。

目測カメラの憂鬱 #1

「当たるも八卦、当たらぬも八卦」という。
 その方面に詳しい方ならご存知だろうけれど、これは中国の旧い易学「易経」*に由来する言葉だ。八卦は通常「はっけ」と読むが、正しくは「はっか」である。
 易経の概念は単純で奥が深い。その基本は陽と陰をあらわすふたつの爻(こう)の組み合わせにあり、これを卦(けい)と呼ぶ。初期の易は3つの爻の組み合わせで合計8パターン(八卦)、のちにこれを一対にして8×8=合計64種類の卦が開発された。
 易は50本の筮竹(ぜいちく、卦を彫り込んだ竹の棒)をもちいるのが本式だが、これはコインの表裏でも代用できる。爻は陰陽の二種類しかないからだ。易によって出現した卦は「十翼」と呼ばれる参考書に照らして運勢を読み取る。ただし万物の事象を64種類に集約するのは無理があるから、その成否は易を行う者の集中力と練度、そしてある種の勘に左右される。
 だが易経のほんとうの面白さは、その行為が宇宙観に結びついているところだ。筮竹やコインの動きには再現性はなく、易を行うたびに答えは変わる。つまり運勢はもともと不確定なもので、そのある一瞬を定着する道具の動きに宇宙の法則が作用するのだという。中国三千年の歴史にふさわしい深遠な話だが、偶然を必然と考えるところにこの学問の醍醐味があるのだろう。

 さて、かつては写真術も「当たるも八卦、当たらぬも……」に近い不確定性があった。これは写真を撮る道具が未完成だったことによる。未熟なものを扱うのだから、そのぶん使い手には熟練のワザと勘が要求される。ワザと勘を持ち合わせたひとは尊敬を集め、あるいは職人として収入が保証されていた。
 そういうアルティザンを目指すひとは、たぶん現代においてはさほど多くないだろう。すくなくとも仕事で写真を撮る人間にとって、撮影に勘を必要とするカメラなどは
「いやあ、昔は皆こうやって写真を撮っていたんですよ。今では私のようなやり方をする人間は少なくなりましたけどね、でもやっぱりこれでなくちゃ」
 ……と、立ち会いの営業や依頼主に虚勢を張るネタとしての価値しかない。だから世の職業写真家は仕事で使うカメラの自動化を(諸手を挙げて歓迎せずとも)受け入れてきたし、これからますますそうなるだろう。
 だが、現代の自動化されたカメラは本当に不確実性を追放できたのだろうか。
 易経に限らず、占いは当たることもあれば外れることもある。それは占い師の手元が狂ったのか、被験者の申告に偽りがあったのか、あるいは宇宙の法則がある日トツゼン改定されたためかもしれない。でも最新のアルゴリズムを積んだ自動カメラを使うのも、空中に投げ出されたコインに運命を委ねるのも、その大筋において意味は変わらないのだ。
 いささか乱暴な論理だが、写真に撮影者の意志を完全に反映させようと望むなら、自己判断と自己責任ですべての操作を行うしかない。その究極の(?)お道具が、ここに採り上げる「目測カメラ」である。

*注:易経は中国に伝承する五経のひとつで、周代に編纂された。卦によって読みとれる要素は自然・人間・属性・動物・身体・方角と多岐にわたる。解説書である「十翼」には個々の卦の解釈とその卦にあらわれた変動要素が記され、これに後世の注釈が添えられる。易経による占いはパソコンでも可能といい、専門のサイトが数多く存在する(ちなみに筆者はどんな占いもまるで信じていません)。


2004年10月13日掲載

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