* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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ピントを外したのではありません、被写体が動いたのです。
Voigtlander Vito-B + Color-Skopar 50mmF3.5 FUJICHROME Provia400F (C)Keita NAKAYAMA



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絞ればピントは安定するが、被写界深度に頼りすぎるのも考え物。レンズ鏡胴のスケールで深度を読み取る癖をつけよう。
Voigtlander Vito-B + Color-Skopar 50mmF3.5 FUJICOLOR New Pro400 (C)Keita NAKAYAMA



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幻の珍獣「アカレッテ」。戦後西独に興されたアッパラーテ社(AkA)のデビュー作で、目測カメラながらレンズ交換システムを採用、ファインダーも最初から二焦点分を積んでいる。レンズは名門シュナイダー社から供給を受け(45mmから90mmまで各種存在した)、そのマウントにも当時珍しかったスピゴット式を採り入れるなど意欲的なつくりが目を惹く。流線型のボディシェルも独創的で、どこかファニーな表情がある。アカレッテシリーズは1940年代後半から50年代半ばまで続き、後継機の「アカレレ」に引き継がれた。(本機による作例はもう少々お待ちください)

目測カメラの憂鬱 #2

 さて「目測カメラ」である。読んで字のごとく、これはピント合わせに必要な測距機能を持たないカメラの総称だ。英語ではビューファインダー(View Finder)カメラと表記するのだけれど、この分類はゾーンフォーカス*などの「お助け機能」(それほど親切ではないけど)を持つカメラも含んでいる。
 ここではそういうカメラと区別するため、「目測カメラ=撮影者が読み取った距離数値の設定で撮影を行うカメラ」と定義しておこう。肝要なのは距離数値という言葉だ。「だいたいこれくらい」じゃなくて「ここからあそこまで何メートル何センチ」という、“視覚を絶対値に置き換える判断”を撮影者に迫る、そういうスパルタ的なカメラである。

 写真術の歴史にこの種のカメラが現れたのはいつ頃か、それはちょっと曖昧だ。ごく初期のダゲレオタイプ**にもちいられたカメラはレンズが途方もなく暗く、必然的に被写界深度は深くなる(=ピントが合う範囲が広い)から精密な測距は不要だった。後に登場する固定焦点の大衆カメラなどもこの被写界深度でピント合わせを不要としており、これは「写ルンです」なども同様だ。
 ダゲレオタイプの後を襲って普及した大判カメラたちは、フィルムホルダーを外した合焦面に磨りガラスを当てればピントを目視しながら調整できる。ただしピントグラスの視野は暗く、冠布(斜光用に被る布)を使う余裕がない場面では目測に頼らざるを得ない。
 本格的な目測専用カメラが出現したのは、いったん装填したら撮り終えるまでカメラから抜き取れないロールフィルムと、被写界深度に頼った撮影ができない明るいレンズの組み合わせが実現してからのことだ。二十世紀初頭の中判カメラ、そしてこれに続く35mmシネフィルムをもちいた小型カメラには、完全な目測機(機能的に不完全なカメラをこう呼ぶのも妙な話だが)が存在していた。
 もちろんこの時代の写真家たちがそういうカメラを常に目測で使っていたわけではない。三角測量の原理を応用した光学距離計もおなじ時代に実用化され、距離計の指示値を読み取ってレンズの距離環を動かす手間はあったものの、これを携行すればピンボケの失敗もずっと少なくできた。
 とはいえ、同時代のレンズで先鋭なピントを得るにはある程度絞り込む必要があり、また当時はフィルムの性能も低かったから、道具に頼ってまでピントにこだわるひとはそれほど多くなかったはずだ。一部の職業写真家は別として、昔の写真はピントも露出もだいたい合っていれば許される、そういう大らかな趣味だったのだと思う***。
 様相が変わったのは1930年代に入ってからのことだ。西独ツァイス・イコンが連動距離計(光学距離計とレンズの距離環が機械的に連動する)を内蔵したコンタックスI型を完成させると、それまで目測専用カメラだったライカもこれに追従する。30年代の半ばにはツァイスから「絞り開放でも先鋭な像を結ぶ」画期的な大口径レンズが発売され、高級カメラの世界では精密なピントの保証が必須となった。やがてこの機構はコストダウンが進み、50年代には中級機や大衆機にまで採用されるようになる。
 それで距離計のないカメラは命運が尽きたか、といえばそんなことはない。実は目測カメラの黄金時代はここから始まるのだ。

●制作協力:脊山麻理子


*注1:ゾーンフォーカス=撮影距離を「近景、中距離、無限遠」などいくつかのゾーンに区分けしてピント合わせを簡略化した機能。

**注2:ダゲレオタイプは19世紀半ばにフランスのニエプスとダゲールが開発した銀板写真のメソッドで、写真術の始祖とされる。撮影にはヨウ素の蒸気を当てて感光性を与えた銀板を用い、露光後に水銀蒸気で現像して陰画を得る。

***注3:20世紀のパリを撮った写真を年代順に編纂した写真集が手元にある。面白いのは1920年代の作品群で、アジェなどはかなり絞ったパンフォーカスの写真が多いが、ケルテスやラルティーグは明らかに大口径レンズの浅いピント面を活かしたスナップをものにしている。いったいどうやって撮ったんだろう?


2004年10月20日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部