* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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「スクエアフォーマット編」で紹介したテナックスで街頭スナップ。ピントは柱の少し先に合わせたつもりだったが、僅かに前ピンか。絞りはゴーロク、シャッター速度は1/25秒。画面左上のフレアはノンコートならでは?
Zeiss Ikon Tenax + Novar Anastigmat 35mmF3.5 FUJICOLOR Superia100
(C)Keita NAKAYAMA



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テナックスでの失敗例。絞り込みが中途半端でピントがどこにもないのは被写界深度スケールを過信したため(このカメラによらず、表示より深度が浅いものはけっこうある)。ところで画像が僅かに横長なのはスキャナのキャリアによる蹴られが原因で、実画面サイズはほぼ正確に24mm×24mmである。
Zeiss Ikon Tenax + Novar Anastigmat 35mmF3.5 FUJICOLOR Superia100
(C)Keita NAKAYAMA



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レチナIb・タイプ019/0。以前にも紹介したレチナシリーズの目測機で、1957年から翌年にかけてごく少数が生産された。製造はドイツコダック(コダックAG:米国のコダック社がドイツのナーゲル社を買収して設立した企業)。レチナはもともと目測機でスタートしたためか、各時代にそれぞれ距離計を持たないモデルが用意されていた。タイプ019はセレン露出計とLVシステムを搭載した「究極の目測カメラ」である。写真のカメラは“レチナ使いのマリコ”こと脊山麻理子さんの愛機で、彼女の素晴らしい作品はこちらをご覧いただきたい。

目測カメラの憂鬱 #5

 話は目測機の黄金時代からすこし前に進んで、今からおよそ20年前。世の中にAFカメラが登場したころ、一眼レフの交換レンズでピントリングが邪魔者扱いされていた時期がある。ピントは機械が合わせてくれるから、撮影者が自分でこれを回す必要はない。むしろモーターの作動に支障をきたすから手を触れないでくれとばかり、幅広のリングは薄い円盤になってしまった。
 その後「機械は万能ではない」という見直しが進み、今ではAFカメラにも立派なピントリングが復活している。でもAFに慣れてしまうと、ピントは合って当たり前。そこに積極的な作画意識が入り込まないことも多い。少なくとも僕の場合はそうである。
 ところが目測機ではそうはいかない。ピントは(露出とおなじように)撮影前の確認ができない。だからピントリングを積極的に使おうという意識が強くなる。作画意識とピント意識が一体化する、それが「打てば響く」このカメラの面白いところだ。

 では、ピントとはいったいなんだろう。
 それは被写体がボケずに明瞭な像を結ぶ面のことだ。って当たり前なので専門用語で書くと「ピント面、または焦点面」となる。印象はたいして変わらないけど、このピント面は厳密にいえば三次元の中の二次元、つまり奥行きのないただひとつの平面である。
 だが、その前後にもボケが無い、というか、ボケを肉眼で感知できない層が存在する。この層を含めて、ピントが見かけ上合っている空間の厚みを「被写界深度」と呼ぶ。
 被写界深度は、レンズの焦点距離と絞り値、そして被写体との距離によって変化する。レンズの焦点距離が短いほど、また絞り値が大きいほど、あるいは被写体との距離が長いほど、見かけ上ピントが合う範囲は深くなるのだ。
 ただし、おおかたの目測機はレンズ固定式で、比較的深度の浅い標準レンズが付いている。困ったものだが、安価を旨としてこの種のカメラがつくられた時代、当時は高価だった広角レンズを組み込むことは難しかったのだろう。
 だから目測機で確実なピントを得ようと思えば、絞り値をなるべく大きく取る必要がある。これは感度の高いフィルムを常用することで解決できる。さいわい現代の高感度ネガフィルム(ISO400や800)は性能が高く、画質面での問題はほとんどない。
 なるべく絞り値を大きくして被写界深度を稼ぐ。これでピントの合う確率は高くなるけれど、無闇に絞りすぎるのは止めた方がいい。レンズの持つ本来の性能を発揮できない**、などという学術的な理由ではなく、写真がパンフォーカスに近づいて作画意識が崩れることがあるからだ。
 だから目測機では、ピントリングに彫り込まれた深度スケールを積極的に活用することが必須となる。主要被写体までの距離を読んで、それを距離指標に移し替えるときに、併せて絞りによるピント面の深さを考え、露光量が等しくなるようシャッター速度を調節する。文字で書くと滅茶苦茶に面倒だけど、慣れればそんなに難しくない。
 そうそう、前回ちょっと触れた「巻き尺で距離を測る」ということ。あれはレンズの距離指標が正確に記されていることが必須だけど、実際にこの表記はけっこうアバウトなものが多い。だからもし巻き尺を使うなら、事前にテスト撮影をしておいた方が良いだろう。

 しかし、とはいえ、なぜわざわざそんなに面倒なことをするのだ。

*注1:多くの目測機は同時代に距離計を装備した機種より1段分暗いレンズを搭載している。これは設計者の慧眼というべきで、たとえば今回紹介したレチナも同時代の「IIIc」がシュナイダー・クセノンF2が標準とされるのに対し、目測の「Ib」はクセナーF3.5としている。目測機愛好家たるもの、ゆめゆめ大口径レンズに惑わされぬよう。

*注2:写真用レンズの性能が最良の状態で発揮されるのは絞り開放から2〜3段程度絞ったあたりで、これ以上絞ると解像力やコントラストが低下していく。これは絞り開口部で発生する光の回析現象に因るもの。


2004年11月17日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部