* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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少女が振り向くのと、僕がカメラを構えるのがほぼ同時だった。テナックスのように軽いカメラはしっかりホールドしないと即ブレにつながる。
Zeiss Ikon Tenax + Novar Anastigmat 35mmF3.5 FUJICOLOR Superia100
(C)Keita NAKAYAMA



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表参道にて、RF機をフレーミングのみで撮影。目測機に慣れると置きピンも楽々だ。
Zeiss Ikon ContaxIIa + Jupitar-3 50mmF1.5 FUJICOLOR New Pro400
(C)Keita NAKAYAMA



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目測の名手、脊山麻理子さんとフォクトレンダー・ヴィトーB。指先が切れたのは単体ファインダーのパララックス補正を過信したため。目測機もそうだが、ビューファインダーでの構図は多少トリミングの余地を残した方が無難だ。ちなみに彼女がヴィトーBで撮った作品はこちらこちらをご覧ください。
Leica M3 + Elmarit-M 28mmF2.8 FUJICHROME ASTIA100F
(C)Keita NAKAYAMA

目測カメラの憂鬱 #6

 なぜ目測カメラを使うのか。それは「ひとはなぜある種の道具に惹かれるのか」という問いといっしょで、答えはひとそれぞれ、正解はどこにもない。この点、旧いカメラはみんな一緒なのだけど、機能万全の最新機種を選ばない理由はわりあいにハッキリとしている。自分が積極的に撮影操作に関わりたいからだ。
 これは撮影の結果に意志を込めたい、ということとはすこし意味が違う。また失敗を愉しむということでもない。ただし最新のカメラと違って、旧いカメラは失敗の原因がつかみやすく、その反省を次につなげることができる。目測機でいえば、このカメラに慣れると被写界深度の意識が強くなり、一瞬のチャンスを活かしたスナップがとても楽に撮れるようになる。
 いっぽう機械好き、いわゆるメカフェチにとって、目測機は隠れた宝の山かもしれない。ピントを目で確認できないという、ただそれだけの理由で、このカメラは不当に扱われている。今回の撮影に使ったカメラでも、特にフォクトレンダーのヴィトーBなどは素晴らしく精緻な造りと高性能なレンズを持つ第一級のカメラでありながら、市場での人気は今ひとつというところ。状態の良い品が安価に流通しているから、これから目測機に親しもうという方には最良のチョイスのひとつだろう。

 でも、僕がこのカメラを使うほんとうの理由はそういうことではない。

  人間がある行いをなすと、その結果はめぐりめぐって自分に還ってくる。仏教でいうところの「因果律」というやつだ。この項の冒頭では易経を引き合いに出したけれど、カメラの操作はどちらかといえばこの概念で考えた方が分かりやすい。カメラの操作部材をある判断のもとに動かせば──それが正しくても間違っていても──その結果が写真のアガリに反映される。目測機はそういう因果律を実感できる機械として、最右翼と呼べるものだ。

 晴れた日に目測機を持って散歩にでる。軽くて小柄なボディは携帯が苦にならない。カメラ付きケータイでスナップする若者からすこし離れて、明るいファインダーで世界を見わたす。何かが起きそうな予感がしたら、そこでいったん露出を取る。あとは心が動く出来事をじっと待つ。不自由な機械を手にしていると、ほんの僅かなきっかけを見逃さないようになる。ブレーキの利きがアマいクルマを走らせていると、前走車の動きに敏感になるのといっしょだ。
 そんなことを続けていると、不思議なことが起きるようになる。撮影のきっかけを感知してから反応するのではなく、被写体の動きとこちらの撮影動作が同時並行で進んでいくのだ。理由はよくわからないけれど、僕がそういう状況にでくわしたのは、目測機を手にしているときだけである。

 スイスの心理学者ユングが提出した概念に、共時性(シンクロニシティ)というものがある。これは「因果的に依存しない外的事象と内的事象の“意味のある偶然の一致”」を意味しているという。今は絶滅した目測機にそれを引き起こす力があるとは思わないけれど、機械に依存しない部分がたっぷりあるこのカメラは、人間の隠れた能力を呼び覚ます可能性を持っている。

 と、かように目測機による撮影は愉しい。なのになぜこの連載のタイトルに「憂鬱」の二文字があるのか。答えは単純、それは僕がいまだにこのカメラで納得のいく結果を出せていないからだ。このカメラには撮影者の資質を浮き彫りにする力があるのだろうか? 嗚呼!

(この項終わり:次号は「maRiko's photo diary」を掲載します)

●制作協力:脊山麻理子



2004年11月24日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部