* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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Leica M3 + Orion-15 28mmF6 FUJIFILM Neopan400 PRESTO
(C)Keita NAKAYAMA



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Leica M3 + Super-Angron 21mmF4 FUJICHROME Astia
(C)Keita NAKAYAMA





東京レトロフォーカス Special Edition
『Short Story〜イタリアの石ころについて #1』


 妙な一日だった。

 なんとかかんとかシステムズ、という会社からの仕事依頼ででかけようとしたら
「急に企画方針が変わったので」と断りの連絡。
 まあよくあることだから、雑誌から頼まれた原稿のアイデアでも練ろうか。いやその前に洗濯物でも取りに行こうと、自転車に乗ったら……。


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 数年前の冬、ひとりで北イタリアを旅したときのこと。
 トリノの南の丘陵のてっぺんの、かつて王様の別荘だった宿で葡萄畑に囲まれて一週間を過ごし、ワインの造り手たちと語らい、旧い友人や新しい友だちとおいしい料理を食べて腹をかかえて笑い、さて旧いカメラを抱えてトスカーナに向かおうという、そのお昼前のことである。
 宿を出て田舎道をしばらく走ると、片側二車線のバイパスに出る。アウトストラーダ(高速道路)21号線につながるこの道は流れが速く、初冬にはよく濃い霧につつまれて事故が起きる。この濃霧は僕も経験したことがあるけど、その日は快晴だった。
 行き先のフィレンツェまで400キロあまり、のんびり走っても夕方には着く。でもあの迷路のような旧市街を思えば、なるべく陽の高いうちに着いた方がいいだろうと、先を急ぐことにする。そうしてちいさな橋をわたったところで大型トラックに追い越しをかけると、目の前になにかが見えた。急速に迫ってくるそれは、僕の進路をふさぐでっかい石のカタマリだった。
 右はトラックに塞がれた格好なので、もとの車線には戻れない。ブレーキを踏みつつ避けようとしたけど、左側のタイヤで石を引っかけてしまった。
 ガツンと衝撃、そして炸裂音。
 ハンドルを左に取られながら、なんとか右の路肩に止めることができたのは、たぶん運が良かったのだろう。追い越し車線に出たときは時速150キロくらいで加速していたのだから。大きく息を吐いてクルマを降りると、なんと左のタイヤが前と後ろの両方とも、パンク(というか、破裂)してぺちゃんこだ。
 これでは走れない。
 が、もちろんタイヤのスペアは一本しかない。
 電話で友人を呼ぼうと思ったけど、周囲はろくに民家もないあたり。やむを得ず駆動輪だけ交換することにして、トランクから赤い三角の標識を取り出して立てる。クルマをジャッキで持ち上げ、破裂したタイヤを取り外してスペアと入れ替える。ただそれだけの作業に30分、セーターの下は汗まみれだ。

 こんな時、記念の写真でも撮っておけば後で笑い話のネタが増える。でも僕はグローブボックスに入れたライカに手を伸ばす気になれなかった。両手は真っ黒に汚れ、気分もどんより落ち込んでいたからだ。


−作者より−


今月はいつものクラシックカメラ談義から少し離れたフォトエッセイをお送りします。年の瀬の忙中閑に読み飛ばしていただければ幸いです。


2004年12月08日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部