* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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Leica M3 + Super-Angron 21mmF4 FUJIFILM Neopan400 PRESTO
(C)Keita NAKAYAMA



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Leica M3 + Elmarit-M 28mmF2.8 FUJIFILM Neopan400 PRESTO
(C)Keita NAKAYAMA





東京レトロフォーカス Special Edition
『Short Story〜イタリアの石ころについて #2』


 事故現場から歩くようなスピードでのろのろと走り、修理工場を探す。後輪は破裂したままなので、焼けたゴムの匂いが車内まで入ってくる。意外にもバイパスの出口のすぐそばにタイヤ屋があって助かったのだが、問題はそこからだった。
 僕はタイヤ屋の事務所からミラノのレンタカー会社に電話を入れて、事情を話した。
「タイヤが2本駄目になったのですね。ではお近くの営業所で交換の手続きを取ってください」
 いや、スペアと交換できなかった方のタイヤは破裂したままで走ってきたからボロボロで、もう1ミリも動けないんだってば。
「そうですか。ではどこかでタイヤを交換して営業所まで移動してください」
 それって、保険の扱いになるんだよね。いちおう手続きを確認しておきたいんだけど。
「了解しました。 保険の担当者に繋ぎます」
 という受付嬢の言葉のあとに続く保留のチャイムを聴くこと……なんと1時間半!
 その間も何度か電話が切れてかけ直しを繰り返したのだった。

 ようやく電話に出た相手(オフィスはローマにあるらしい)に事情を説明すると、
「タイヤ2本ですか? それなら保険を使わない方が得策でしょう」
 なんでだよ。
「保険には免責金額がありますから」
 ああそうか。彼はタイヤ2本ならその範囲に収まって、保険金はおりないといいたいのだ。
 でも、もし他のところもダメージを受けていて(パンクしたままのスロー走行でタイヤだけでなくホイールも曲がっていたし、ホイールキャップもどこかに落っことして紛失していた)免責金額を超えたらどうする。
「ちょっと工場の人間に変わってください。(工場の人と話して)お客さま、やはり免責の範囲内で済むと申しております」
 だから、もし点検した結果が違ってたらどうするんだって。
「いえ大丈夫。なにも問題ありませんよ、ノンプロブレーマ」
 きっと相手は僕の語学力に辟易して、細かい説明をするのがおっくうになったのだろう。ノープロブレム、か。こちらも面倒になったので、けっきょくタイヤは自費で換えることにした。ほとんどヤケである。

 タイヤ交換の順番を待つのに1時間ほどかかったこともあり(この季節は冬用のタイヤに換えるひとが多く工場は混んでいた)、すべてが終わったときには冬の陽が沈みかけていた。もうフィレンツェに着く予定の時刻を過ぎている。これからアレクサンドリアに立ち寄ってクルマを交換していたら、到着は日付が変わるころになるだろう。僕はクルマを換えないことに決め、事務所の洗面所の冷たい水で洗った手でライカを持ってスナップを撮ったけれど、どれもつまらない写真ばかりだった。
 旅先でも気分が落ち込んでいるときは写真を撮らない方がいい。


−作者より−


今月はいつものクラシックカメラ談義から少し離れたフォトエッセイをお送りします。年の瀬の忙中閑に読み飛ばしていただければ幸いです。


2004年12月15日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部