* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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「ちょっとピンボケ」中野にて
Leica IIIg + Summitar 50mmF2 FUJICHROME Astia 100F
(C)Keita NAKAYAMA



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カメラケースづくりの名人、平井宏一さん。いったんは途絶えた伝統的革ケースづくりの技法を現代に甦らせる職人さんだ。背後に見えるのは平井製作所の二階工房、裁断と縫製を終えた革素材がここで立体的なケースに仕上げられる。
Leica IIIg + Summitar 50mmF2 FUJICHROME Astia 100F
(C)Keita NAKAYAMA





『職人の革ケース #2』

 カメラにはそれぞれ固有のシャッター音がある。特に機械式カメラの場合、厳密におなじものは二つとない。これはライカに限った話ではないけれど、ライカほど個体差が大きいカメラも少ない。何故かといえばメカニカルな部品の数が多く、ゆえに組み立てと調整の具合で差が生じるためだという。
 僕のIIIgも戦前のライカに比べるとやや硬質なシャッター音を発する。それはシャシーの材質の違い*に因るものか、あるいはそろそろオーバーホールの時期なのかもしれない。原因は定かでないが、バルナックにはもう少しソフトな音を望みたい。
 ではどうすれば音質を軟らかくできるか。これには二つの方法がある。シャッター幕を駆動するスプリングのテンションを下げること、またはボディを吸音性の素材で包むことである。後者は舞台撮影などに用いる「消音ケース」とおなじ原理だ。
 機械式シャッターのテンション調整は音質を変えるのにもっとも効果がある。でもスプリングのテンションをあるレベル以上に下げた場合、設計の基準値を超えて弊害を生じる可能性もあって、調子の良いボディではあまりやりたくない。
 そこでもうひとつの方法を、ということでボディを購入時に付いてきた革ケースに入れてみる。これはなかなか効果的だった。といってもごく僅かな差ではあるけれど、カメラを構えた耳元では明らかな違いがある。特にスローガバナーが入る1/60秒以下ではたいへん耳に心地よい音になる。
 もちろん音が好ましくなったところで、撮った写真に違いが生じるわけではない。でもそういう些末な要素を排除すると、敢えて不便な古典カメラを使う意味も半減するだろう。
 というわけで、僕は俄然クラシカルな革ケースを見直すことになった。純正革ケースに収まったIIIgをしげしげと眺めれば、これがなかなか見目麗しい。さらにセルフタイマーを避けて抉った右手側のフォルムはボディのグリップにちょうど良く、カメラのホールドも安定する。
 かように素晴らしい効果をもたらす革ケース、英語では「エバレディケース」と称する。これはケースの上下がホックで分割でき、上のカバーを外せば瞬時に撮影に入れるためなのだが、このタイプのケースは今のカメラでほとんど見かけられなくなった。ほんとうに絶滅してしまったのだろうか?
 ネットで検索したところ、少数ながら今でもつくっている職人がいる。そのひとりが、東京・高円寺に工房を構える平井宏一さんである。

※取材協力:平井製作所

*注:バルナック型ライカは戦前のIIIb/IIb/Ibまでシャシーに鋼鉄素材を採用し、これを板金加工で組み立てていた。その後のIIIc/IIc/Ic以降はアルミダイカスト製のシャシーを採用したため、板金ボディよりも音響的な共振点が上がっているようだ。


2005年04月20日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部