* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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平井製作所一階の工房で「牛一頭分」の皮革素材を見せていただく。平井さんのカメラ用革製品には現在4種類のカラーバリエーションがあり、写真はブラック、ナチュラル(染色していない生成り色)、ブラウン。この他にライカ純正ケースとほぼ同色のダークブラウンもある。
Leica M5 + Elmarit 28mmF2.8 FUJICOLOR New Pro400
(C)Keita NAKAYAMA



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工房の一階奥には革加工専用の機材が並ぶ。これは型押し用のプレスマシンで、平井さんが指差しているのは鏡面加工用の型。これをシボ模様にすればシボ革が、クロコダイル模様にすればワニ革のパターンが転写される。パターンの転写には熱と圧力を利用する。
Leica M5 + Summilux 50mmF1.4 FUJICOLOR New Pro400
(C)Keita NAKAYAMA





『職人の革ケース #3』

 平井宏一さんは昭和6年生まれ。戦後の動乱期に革製品づくりの工房に就職し、そこでは主に進駐軍向けのカメラケースをつくっていた。後に国産のカメラ用ケースも手がけ、昭和20〜30年代の機械式カメラ黄金時代にはたいへん多忙であったという。
「頼まれれば何でもやりました。米国製のアンスコ用とか国産の二眼レフ用とか」その時代はカメラに革ケースは必需品だったのだそうだ。
「でもなかなか儲からない仕事でしたね。なにしろ大ヒットしたリコーフレックス、あのケースはけっこう手が込んだ細工をしているんですけど、メーカーに納める値段は馬鹿馬鹿しいほど安かった。いちどリコーの偉い人に“安すぎる”と文句を言ったんです。そうすると“平井さん、あのカメラを一台売った利益はあなたのケースより安いんだよ”と返されました(笑)。まあそれでメーカーも下請けもやっていけた、そういう時代だったのです」
 そのカメラケースづくりもやがて下火になる。これにはカメラの構造や使われ方の変化もあるようだが、じっさいは職人が離れていったことも大きいという。
「当時のカメラケースは革職人ではなく、カメラ技術者がデザインしていたんです。ですからやたらに複雑なカタチを要求される。ニコンのS型などは最たるものですね。デザインに凝れば製作工程も多くなって、時間がかかるいっぽうで納入価格はたたかれる。それで多くの工房が潰れ、あるいはもっと歩留まりが良いカバンづくりなどに転業していきました」
 勤め先から独立した平井さんも、カメラケースからバッグ製作に軸足を移す。そうして現在の高円寺に工房を構え、順調にビジネスを伸ばしていったのだが、やがて日本の革製品づくりに転機が訪れる。
「平成に入って、取引先の大手メーカーは国内よりも人件費の安い韓国や中国に生産拠点を移していきました。価格競争ではとうてい太刀打ちできません。そこでもっと付加価値の高いモノづくりを、ということでカメラケースの製作を再開したわけです」
 その平井さんの工房はなかなかユニークな生産体制である。往時そのままに手の込んだ製品を、きわめて現代的な手法で再現しているのだ。

※取材協力:平井製作所


2005年04月27日掲載

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