* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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広角レンズも24ミリともなると画面四隅はこのように対角線方向に向けて引っ張られる。背景のない部分に人物の顔などを置くとディストーションが目立つことがあるので要注意だ。ところで脊山さんが跨っているのは高さ3メートルほどの護岸で、右に落ちればそのまま河面まで真っ逆さま(撮り終えてから気付いて蒼くなりました)。
FUJIFILM NATURA-S + Super EBC FUJINON 24mmF1.9 / FUJICOLOR Reala ACE
(C)Keita NAKAYAMA



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「漁港にて」。手ブレが失敗写真の代表みたいに言われた時代はそう遠い昔ではない。表現の幅を広げてくれた写真家たちに感謝しなければ。
Leica M5 + Summicron35mmF2 / FUJICHROME Astia100F
(C)Keita NAKAYAMA



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M5のファインダー情報を作図してみた(ただし非焦点面のボケがこんな風に見えるわけではない。またピント面が近距離にある場合ブライトフレームはもっと右下に移動する)。これは35mmまたは135mmレンズを装着した状態で、メーターの測光エリアは内側の135mm用フレームにほぼ等しい。視野枠と露出スケール、シャッター速度表示が画面の高輝度部に重なると視認不能に陥ることがお分かりいただけるだろう。
(C)Keita NAKAYAMA

『ライカとナチュラな日々 #11』

 当初は「ちょっぴり触れておく」つもりだったM5のバックグラウンドストーリーも、書きはじめたらずいぶん長くなってしまった。失敗作という世評への疑問が高じてのこととはいえ、やはりこれは写真機趣味の血を騒がせるカメラなのだろう。
 読者諸氏には退屈だったかもしれないけれど、蘊蓄話を長々と綴るあいまにM5とナチュラSには数十本のフィルムを通すことができた。そうして思ったのは、この二台がどこか似たものを背負っているのではないか、ということだ。
 突起のすくない、四角い弁当箱のようなボディ(桃ナチュラは「石鹸箱」と呼ぶ方が相応しいか)も似ているといえば似ている。また「はじめにレンズありき」的な思想も両者で近いところがある。でももっとイメージがダブるのは、ある意味で逆境のなかに生まれた両機の成り立ちである。
 すでに書いたように、M5は日本製一眼レフとの熾烈な競争のさなかに生を受けた。いっぽうのナチュラSはデジタル時代のフィルムカメラのあるべき姿を模索して誕生したという背景がある。両者がリカバーしようとした失地はまるで違うとはいえ、どちらも開発者が持てるリソースを傾注した、ある種の気概に満ちたカメラだと思う。

 まあこういう感想は使い手の勝手な思い込み、というより妄想に近いものなので、こじつけや勘違いはご容赦いただきたい。でもふたつのカメラを真剣に使って感じるのは、「写真は直感だ」ということである。
 そして実はその点にこそ写真趣味と写真機趣味の交わる地平がある。
 いかん、結論を先に書いてしまった。

 ライカM5において撮影者の直感に働きかける部分はといえば、これはもうファインダーに尽きるだろう。素晴らしく明るく透明な視野(M型ライカの命)には「ブライトフレーム」と呼ばれる視野枠が浮かび上がる。半透明のその枠を“被写体に張り付いたように見える”というひともいるけれど、僕はそうは思わない。そうではなくて、これは三次元の世界を二次元に置き換える写真術のプロセスで、撮影者に「二次元半の世界」を突きつける魔法の線なのだ。
 もちろんブライトフレームだけなら他のM型ライカでも観ることができる。M5を他のM型や類似したカメラと隔てているのは、画面の下辺に浮かび上がる長大な露出スケールだ。ブライトフレームと同様の手法で浮かび上がる*そのスケールのなかには、右手と左手それぞれの指先の動きに直結した二条の直線が移動する。
 このシンプルな仕組みを考えたエンジニアは、実に世界を直感的に切り取る方法を発明したのだった。

※制作協力:脊山麻理子

*注:M5の露出スケールとシャッター速度表示は軍艦部前縁の採光窓からの透過光で照明される。天空光を効率的に利用する巧みな手法だが、自照式ではないため暗い場所ではブラックアウトし、また背景に明るい部分が重なるとホワイトアウトする欠点がある。前者は回避不能だが後者はビューファインダー窓の下辺をテープで塞げば解決可能。僕は幅1ミリほどのパーマセルテープを貼っている(35mmレンズを使う場合は視野の下辺が蹴られるけれど、アイポイントをずらせればちゃんと見える)。


2005年08月31日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部