* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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とある夕暮れの家族の肖像。ナチュラSの露出システムは外部測光・平均測光のAEで、こうした条件ではきわめて信頼性が高い。古典レンズとはまた違った空気感の描写が秀逸。 FUJIFILM NATURA-S + Super EBC FUJINON 24mmF1.9 / FUJICOLOR Pro400
(C)Keita NAKAYAMA



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桃ナチュラと少女。 Leica M5 + M-Hexanon35mmF2 / FUJIFILM Neopan100ACROS
(C)Keita NAKAYAMA





『ライカとナチュラな日々 #13』

 ライカM5の露出計はけっこうアナクロい仕掛けである。
 M型ライカとしてはじめてボディに内蔵した露出計はTTL(Through the Taking Lens=撮影レンズを透過した光で測光する)方式で、この点を観ればそれまでの外付け・外部測光方式から一気に時代に追いついたといえる。
 風変わりなのは測光メカニズムだ。一般的なシャッター膜面の反射光を測る(膜面の一部が灰色に塗られている)方式ではなく、受光部そのものをシャッター幕の直前に置いているのだ。単刀直入というかそのものズバリというか、これほどダイレクトに光を測るメーターも珍しい*。
 四角い団扇のような受光部は中央に円いレンズが、その背後にCdS素子が組み込まれている。そのまま露光すると画面のど真ん中に団扇が写るから、レリーズ時にはアパチャーの外に待避させる必要がある。この待避動作はレリーズボタンと連動する機械仕掛けで、ゆえにレリーズのストロークは他のM型より心持ち深く重い(ただしきちんと調整されたM5は切れるタイミングに明瞭な感触がある)。またボタンを少しでも押し込むと受光素子が待避をはじめるため、「半押し」するとメーターの指示値がズレる。現代のカメラに慣れているひとは注意が必要だ。
 露出計の感度分布で分類するとこれは部分測光、いわゆるスポット測光である。ライツ社では先行するSLR「ライカフレックスSL」でおなじ方式を採用、「セレクティブ・ライト方式」と命名している。露出計内蔵のライカカメラは今に至るまで必ずこの測光分布を採用している(SLRでは他の方式も選べる)が、M5の部分測光は画面中央部の測光範囲とその周囲の不感帯がすぱっと切れているところが特徴だ。
 この露出計に問題があるとすれば、それは使う側に一定のスキルを要求することだろう。撮影者は画面のどの部分を測るかを受光素子よろしく、常にアタマのど真ん中に置いておかなければならないのだ。スポット測光もSLRのようにファインダー視野内で常に一定の面積を測る方式なら、それほど扱いにくいものではない。だがライカのようなRF機はレンズを交換してもファインダーの見え方は変わらないから、レンズの焦点距離に応じて現れる視野枠に応じた測光範囲を記憶するしかない。
 たいした問題ではないように思えるが、素早い露出決定のためには変動するパラメーターをなるべく減らしておきたいところである。加えてCdSの宿命としてメーター指針の動きはややスローだし、測光した「出た目」には被写体の反射率に応じた補正も必要だ。
 だから一瞬の動きへの瞬間的な反応を求められる路上スナップなどでは、露出を外すこともすくなくない。M5で写真を撮るうえでの難しさは、ピント合わせから測光・露出決定、そしてフレーミングにいたるタイムラグが不可避なことで、この時間差は修練を積んでもなかなか縮まらない。

 え? 一瞬のチャンスに対応できないライカなんてガラクタじゃないかって?

 いやいや、そんなことはありません。ここでふたたび写真機趣味と写真趣味の問題に戻って考えてみよう。写真を純粋に愉しむなら現代のAE=自動露出カメラがいちばんで、写真趣味のひとはこちらを使うべきだ。ただし写真の露出というのはフラクタルならぬカオスというか、下手をすると作者じしんにも正解のない世界である。
 そこで「押すだけ」のAE機構やプログラム露出に測光や演算を委ねてしまうと、どこかで自分の写真ではなくなるような気もする。これがM5をはじめとするマニュアル露出カメラなら、測光値に撮影者の作為を込めることもたやすい。というか、M5の露出システムの素晴らしさはこのあたりのさじ加減が実に直感的に「いじれる」ことである。
 そう考えると、先のタイムラグの問題もあながち欠点とはいえないのだ。

※作者より:次週より二回は特別編を掲載、「ライカとナチュラな日々」は10月第1週より再開します。

*注:ライカCL(ライツミノルタCL)も同様の露出計を搭載。ただしこの方式はライカが世界初ではなく、1965年発売のキヤノン・ペリックスが先鞭を告げている。とかく西欧の後追い物真似に終始したといわれがちな時代の日本製カメラにあって、ライカの模倣を誘ったというのは痛快な話である。


2005年09月14日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部