* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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「東大門古書店街」。古本屋に若者が集まる光景はなんとなく心が和む。
Leica M5 + Summicron35mmF2 / FUJIFILM Neopan100ACROS
(C)Keita NAKAYAMA



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「梨泰院街頭」。ソウルの街頭は視線のテンションが高い。上の写真に比べて階調は意図的に切りつめて焼いてある。
Leica M5 + Summicron50mmF2 / FUJIFILM Neopan400PRESTO
(C)Keita NAKAYAMA



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数多あるM型ライカの標準レンズ中、もっとも美しい外装を持つズミルクス50ミリ第一世代。これは1959年に登場した最初期型で、絞り開放付近の残存収差が問題となり僅か二年で設計変更を受けた短命なレンズだ。5群7枚の光学系を収める真鍮鏡胴はたいへん手の込んだ仕上げ、特にマウント側ローレットの見事さは比類がない。
(C)Keita NAKAYAMA

『ライカとナチュラな日々 #17』

 M型ライカの長い歴史をつうじて、いちばん多く撮られてきた写真のカテゴリーはなんだろう。
 報道から広告までほとんどあらゆる分野で活躍してきたカメラだけど、その主戦場はやはり街なかであるような気がする*。キャンディッド・フォト、つまりその場の光景をありのままに写し取るスナップ写真だ。
 このcandid photo=「率直な写真」にはいろいろな定義があって、ある書籍には「被写体に気付かれずに撮る写真、隠し撮りともいう」などと書いてある。間違いではないかもしれないけど、隠し撮りはイメージが悪い。
 べつだん相手に気付かれても構わない。演出を排し、自然な仕草や表情が撮れればそれでキャンディッド・フォトは成立する。むしろ撮影行為としてはカメラの存在を相手に意識させつつ撮るべきであって、だからスナップに望遠系レンズを使うのはあまり感心しない行為といえる。撮影者を安全圏に置いてしまうからだ。

 精神論はさておき、M型ライカがなぜこの種の写真に向いているのか。それは趣味的な外観イメージが相手に威圧感を与えないからだ、という意見がある。たしかにSLRなどとくらべて、三角のでっぱりがないスタイルは柔和に見えるし、ファインダーの視野枠採光窓を指して「これ、ストロボですよね」というひともけっこういる。カメラに興味がなければ無理もない話だけど、光ったりしません。
 シャッター音が静かで相手に気付かれにくいという声もある。その通りだが、これは上記の隠し撮りにつながるので却下。そんな理由でカメラを選ぶのは間違いだ。
 で、いちばん説得力があるのはレリーズのタイムラグが小さくて、狙った瞬間が撮れるという説だ。これはなるほどM型の特質を言い当てている。でもレンズを絞ってピントを稼がない限り、目に写った情景をすばやく切り取るのは難しい。ピントと露出をマニュアルで合わせる場合、どんなM型もカットあたりの撮影所要時間はAFカメラにぜったい敵わないだろう。
 だからキャンディッド・フォトにおけるM型ライカの優位性というのは、実はそれほど大きなものではない。ではなぜ多くの写真家はこのカメラでスナップを撮るのか。
 僕が思うに、それは距離感の掴みやすさにある。
 よく知られているように、M型ライカのファインダー(Mはメス・ズーハ=計測ファインダーの頭文字)は距離計と視野枠をひとつにまとめた精密なものだ。視野枠は交換レンズの焦点距離に対応して現れ、しかもパララックス補正機能もそなえている。
 一眼レフとのおおきな違いは、ファインダー像が完全な空中像で、レンズを変えても見え方は変わらないということだ。だからどんな焦点距離のレンズを使っても、目に映る視野の距離感は一定である。しかも視野枠の外側が常に確認できるから、たとえばこちらに近づいてくる歩行者が狙ったポイントに入った瞬間に撮る、というような芸当が無理なくできる。
 ここで移動する被写体を待ち受けるわずかな時間を使って、というかアタマのなかで同時並行的に構図の検討から露出決定まで行えるのが、じつはライカM5というカメラの価値なのである。


*注:ライカの製造元、 Leica Camera AGが年二回のペースで出版する「Leica World」というフォトマガジンは世界中のフォトグラファーがM型やR型ライカで撮影した秀作を数多く収めている。この本を観ているとやはりM型の作品はキャンディッド・フォトが多く、また欧米ではこのカテゴリーの地位が高いことを再認識させられる。


2005年10月26日掲載

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