* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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乳白色のポートレート。被写体とロケーションと光線が揃えば写真を撮る仕事の大半は終わっている。その先に必要なものはなんだろうか?
Leica M5 + Elmarit28mmF2.8 /FUJICHROME ASTIA100F
(C)Keita NAKAYAMA



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「レチナを持つ娘」M5最後のショットはライカCL用標準レンズで。
Leica M5 + Summicron-C40mmF2 / FUJICHROME ASTIA100F
(C)Keita NAKAYAMA



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ファインダーを覗いて露出を取る。光を読んで補正を加える。ピントを合わせる。フレーミングを決める。被写体はこちらの操作を待ってくれない。カメラ操作が手動でも自動でも思ったようにはなかなか撮れない。だから写真は面白い。
(C)Keita NAKAYAMA

『ライカとナチュラな日々 #21』

 半年も続けてきたこの項にもそろそろ区切りをつける時期が来た。書き漏らしたことも多いけど、それはいずれ機会を見つけて記してみたい。
 旧いカメラのなかでもM型ライカは特に高価な部類で、なかでもM5は生産量の少なさから一時は法外な値段が付いていた。そういうカメラについて長々と語るのは肩が凝る作業で、その負担をすこしでも軽くしようとナチュラSを併用して稿を進めた。これは最初に書いたように、写真趣味と写真機趣味の交点が(M5の露出計指針のように)この両機を使うことで見えてくるのでは、という思いもあったのだが、どうやら足下はいまだに写真機趣味の領域にあって、半歩も踏み出せてはいないようだ。
 じっさいこの両機はそれぞれに違った特質を持ち、それゆえ使い分けるのは愉しい作業である。すべての操作が自動化された現代のカメラは作為を込めるのが難しい部分もあり、逆にマニュアル操作オンリーの旧世代機は素早い操作を受け付けなかったりする。そこで直感的に写真を撮ろうとすると、いっぽうの欠落部分を他方の操作ロジックが埋めてくれるような気にさせられる。これは考えすぎだろうか?
 ライカM5は不完全な機械だが、その操作系統は人間の生理によく合わせて練り上げられていて、たぶんM型ライカの白眉である。いっぽうのナチュラSは視神経と直結したようなレスポンスが心地良く、ほとんど何も考えずに写真が撮れる。そこでほんとうに何も考えなければ、僕も写真趣味の世界にめでたく身を置くことができるのだけど、なかなかそうもいかない。撮影中はどうすればこの自動カメラの裏をかけるか、そんなことばかり考えていたのだから。

 最後にM5のコンディションについて少しばかり記しておこう。市場に流通するどの個体も製造から30年以上の年月が経過しており、若干の問題を抱えている場合が多いからだ。大半のM5はビューファインダーを正面から覗くと三日月状に翳りが出ていたり、接眼部からの視野で二重像部分に虫食いのような痕がある。前者はファインダーブロック内部のガラス部品に接着面の剥がれが生じているため(通称「バルサム切れ」という)で、酷い場合は視野に翳りが生じる。また後者は距離計部分の蒸着面が経年変化で劣化していることが原因だ*。
 どちらのケースも2005年の今現在、ライカ社によって完全な修理が可能だそうだが、コストはかなりの額になる。購入の際はこの点に留意されたい。ちなみに僕のM5はバルサム切れはセーフ、ただし距離計部分にはけっこう虫食いがある。購入時にはちょっと気になったがレリーズや巻き上げの感触を優先し、十数台のなかから選んだ。
 そのレリーズの感触、というかシャッターが落ちる深さも注意が必要だ。これは露出計の受光素子を待避させる動作とメカニカルに直結していることもあり、個体差が大きい。ストロークが深いから駄目ということではなくて、指先に落ちる感触が明瞭に伝わる方が好ましいと思う。手作りの機械式カメラはこういう部分に差が出るのは当たり前で、要は正しい状態を掴み、そこから自分に合った一台を見つけることである。

 そういえばライカに詳しい友人が僕のM5をひとしきり弄って、レンズマウントの修理シールをルーペで覗いて「これ、カナダのミューラーさん(ラインホルト・ミューラー氏:元カナダライツの技術者でライカ整備の達人)が触ったやつだよ、流石だねぇ」と感心していたが、本当だろうか?
 真偽は定かでないが、まぁそれはどうでもいい。僕にとってM5は別格のライカではなく、格別のカメラなのだから。

(この稿終わり:次回より「ちょっと癖のあるレンズのお話」を連載します)

※制作協力:脊山麻理子

*注:ファインダーの「バルサム切れ」はカメラボディに衝撃を与えても生じるが、経年変化によるものは超初期のM3を除いてあまり見られない。たぶんライツ社がM5の時代に製造工程の見直し、あるいは材料の変更などを行ったために問題が出たのだろう。


2005年11月30日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部