* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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ベルテレのゾナーの末裔、旧ソ連製ジュピター3で撮影。真横からの光が白い壁と服に反射する厳しい条件(フード未装着)だがフレアは右手の袖口あたりに僅かに観察されるのみ。
Zeiss Icon Contax IIa + Jupitar-3 50mmF1.5 / FUJICOLOR Pro400
(C)Keita NAKAYAMA



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絞り開放付近でもピントは素晴らしく、アウトフォーカス部の溶け方も素直だ。古典的なゾナー系レンズはやや派手目の発色が特徴で、人物撮影などでニュートラルな発色を求める場合はフィルムを選ぶ必要がある。
Zeiss Icon Contax IIa + Jupitar-3 50mmF1.5 / FUJICOLOR Pro400
(C)Keita NAKAYAMA



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戦前ゾナーの設計と生産設備を旧ソ連に移してつくられたジュピター3。イエナ製のオリジナルより逆光に強く、オールラウンドに使える名レンズだ。ライカIIIgでも問題なく使えるが、ビューファインダー窓がレンズマウントに近接しすぎている(パララックスは小さいが)ため、写真のようなスリットフードは必須。ファインダー視野のケラレを最小限に抑えることができる。
(C)Keita NAKAYAMA

『ハレ、時々クモリ #3』

 テクノロジーの恩恵を受ける文化がすべてそうであるように、写真にもその時代の技術が色濃く反映されている。今では古典的な描写とされるレンズにしても、それが製品として生まれた当時のひとたちにはじゅうぶんにリアルな現実を感じさせたことだろう。
 ではそこに、突然変異のように未来的な描写のレンズが出現したら? たぶん現代のデジタルフォトグラフィーなどよりも、ずっとインパクトが強かったのではないだろうか。
 ゾナーとは、たとえばそういうレンズである。

 最初のゾナーが生まれたのは1930年。開発者はカール・ツァイスの光学技術者ルートヴィヒ・ベルテレである。彼はもともとエルネマン社の設計室に在籍していて、二十代の前半でエルノスターと呼ばれるレンズをつくったことでも知られている。天才肌の技術者だが、ツァイスに移ったのはヘッドハンティングされたわけではなく、ドイツの不況でふたつの会社が統合されたためである。
 博士号を持つような理論派が多いツァイスにあって、ベルテレはむしろ閃きでレンズをつくるタイプのひとであったようだ。それは彼の仕事として残っているレンズ設計、なかでもゾナーのレンズ構成を観ればよくわかる。いや、分かるひとには分かるらしい。

 あるレンズ設計者との雑談の折、このレンズの話題が出たことがある。ゾナーといってもその名前を冠したレンズはあまたあるが、これはベルテレ自らが手をくだした「50ミリF1.5」の話である。以下のお話はできればレンズ構成図(ネット上を探せばあちこちにある)を参照しながらお読みいただきたい。

「このレンズは光学設計の教科書に必ず採り上げられます。技術のお手本でもあるし、なにより着眼点が素晴らしいのですね。3群7枚の設計で、一種のトリプレット(三枚玉)と見なすこともできます」
「第1グループ(群)は1枚、あとの二つのグループはどちらも3枚のエレメントを貼り合わせています。ひとつのグループで二面を貼り合わせるということは、製造工程や精度管理の手間が倍以上に増えるということです」

 レンズの貼り合わせには、伝統的にバルサムと呼ばれる樹脂系接着剤が使われてきた*。ただぺったりと貼り合わせれば良いというものではなく、光軸のセンターを精密に合致させる「芯出し」を行わなければならない。この芯出し(単一エレメントにも行われる)は組み立ての精度に直結するから、管理が甘いと片ピンなどの不良品の山ができる。通常の二枚接合でも面倒な工程なので、三枚接合で歩留まりを確保するのは大変そうだ。

「たぶんコストを度外視した設計ですね。敢えてこれをやったのは、ひとつには光のロスを減らす目的があったのでしょう。戦前はコーティング技術が未発達でしたから」

 さて、ベルテレのゾナーにはまだまだ秘密がある。現役の光学エンジニア氏が明かす驚愕の真実とは? 答えは30秒後にっ、ではなくて次号にて。

●モデル:野口早依子


*注:バルサムは樅の木の樹液から作られる天然樹脂系接着剤。無色透明で硬化が遅く、また硬化後も剥離が容易などの特徴があり、レンズの接合に重用された。ただし衝撃や温度変化に弱く、写真用レンズでも接着面が部分的に剥離する場合がある(=バルサム切れ)。そのため現在は紫外線硬化型などの合成樹脂系接着剤に置き換えられている。伝統的なバルサムを使ったレンズは剥離しても修理が可能だが、合成樹脂系では修理不能となる場合が多い。


2005年12月21日掲載

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