* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


写真
---> 拡大表示

ゾナーに非ず、ライカ一眼レフ用標準レンズによる撮影。今年はM5を仕事の中心に据えたので、フレックスSLの「ボケが見える」ファインダーが妙に新鮮だった。
Leicaflex SL + Summilux 50mmF1.4 /FUJICHROME ASTIA100F
(C)Keita NAKAYAMA



写真
---> 拡大表示

時速300kmの風景。こういう撮り方をしてレンズの描写を語るのは我ながら矛盾を感じる(上の写真もそうだが……)。
Leica IIIg + Jupitar-3 50mmF1.5 / FUJICOLOR Reala ACE
(C)Keita NAKAYAMA



写真
---> 拡大表示

迷光によるコントラスト低下を防ぐべく、レンズフードは年々巨大化の傾向にある。望遠系ならフード長を伸ばすほど遮光効率は高くなるのだが、画角のひろい広角系となるとそうはいかない。現実にはほとんど飾りかレンズガードのような物品が多いなか、ライカは生真面目にもこんなものを製品化してみせた。初代エルマリート19ミリに標準装備された12529は(35ミリ判広角用としては)おそらく史上最大のフードである。なおライカフレックスについては別項で採り上げる予定。
(C)Keita NAKAYAMA

『ハレ、時々クモリ #4』

 光学エンジニア氏によるゾナー談義が続く。

「接合レンズで光のロスを減らすというのは、レンズと空気の接触面で起きる反射を抑えるということです。空気とガラスの界面では一定の割合で反射が起きますから。接合面でも反射は避けられませんが、空気との界面よりもかなり低く抑えることができます」
「問題は透過損失だけではありません。レンズの表面で反射した光は鏡胴内部で複雑な反射を繰り返し(これを迷光と呼ぶ)、フレアの原因をつくります。旧いレンズが逆光に弱いのはこのためですね」
 つまり反射は透過する光の絶対量を減らすだけでなく、コントラスト低下の原因となる。反射防止コーティングが未発達な頃、ゾナーはコストには目を瞑って接合面を増やし、写真に必要なコントラストを確保したのだ*。

 さて、このあたりまでは雑誌記事などでもよく見かける話である。でも天才ベルテレによる設計のキモは、むしろ別のところにあるらしい。

「最後群の貼り合わせ面が凄いんですよ。曲率をおおきく取って、大口径レンズにつきまとう高次の球面収差をそこで補正しています**。これは当時最先端の硝材を使うことで実現した設計でしょう。ツァイスはショットというガラスメーカーをグループ会社に持っていたので、設計の自由度が高かったのでしょうね」
「昔のゾナーは今でも良く写ります。最近の高性能フィルムではさすがに技術の限界も見えてしまいますが。でも時代を考えれば、やはりとんでもないレンズです。たぶん設計と製造の現場はたいへんなことになっていたでしょう」

 歴史的な傑作レンズ、ゾナーには大量のバリエーションがある。また日本でもこの構成を持つレンズは数多い。かのニッコールの名玉、50ミリF1.4(ニコンSシリーズ用)がベルテレの設計を下敷きにしてつくられたことは有名だ。
 僕はあいにくとS用ニッコールには疎遠だけど、戦前ツァイスが製造したゾナーF1.5と、その生産設備をそのままソ連に移して(戦後賠償で接収したという説と、ちゃんとお金を払って買い上げたという説がある)製造されたジュピター3を併用していたことがある。
 流通価格には隔たりがあるけれど、両者の描写はほとんど差が無く、どちらも絞り開放からゾナーならではの繊細なピントを味わうことができる。おまけといっては何だが、点光源のビネッティング形状(なぜか三角)や糸巻き形のディストーション(かなり目立つ)も酷似していた。
 ただし戦前ゾナーはノンコートということもあり、絞り開放ではすこしコントラストが落ちる。コーティングを持つジュピターはフレアの発生が少ない代わりにゴーストが発生する場合もある。どちらを選ぶか、これは好みの問題だ。
 けっきょくそのゾナーは友人に譲った。当時の僕の好みにはジュピターが合っていたからだけど、今はちょっぴり後悔している。それはオリジナル至上主義とかそういうことではない。ただ天才が直々に手をくだしたレンズを持っていたいという、とても感傷的な理由によるものだ。


※次回新年号では写真レンズの源流「三枚玉」を採り上げます。恒例のお年玉プレゼントも待機中、Don't miss it!!


*注1:カール・ツァイスは反射防止コーティングのパテントホルダーで、ゾナーが開発された1930年代初頭にはすでにこの技術を実用化していた。ただしそれは軍需向けの超マル秘技術(Uボート用潜望鏡の透過損失を減らす目的で開発されたそうだ)であったため、一般向け写真用レンズへの応用は後回しにされたらしい。

**注2:収差の話を書くとものすごく長くなるので、詳細はこちらをご覧ください。


2005年12月27日掲載

<--Back     Next-->



Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部