* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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「レチナ使いのマリコ」をレチネッテで撮る。このレンズは前玉にやや拭き傷が目立ちコントラストは低いが、この線の細さと軟らかいトーンは絶品。
Retinette + Schneider Reomar 45mmF3.5 / FUJICOLOR Reala ACE

(C)Keita NAKAYAMA



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上とおなじ条件で撮ったカットにスキャナのドライバで自動レベル補正をかけたもの。低コントラストの絵に強制的に濃淡を与える手法はいぜん流行ったロモグラフィーとおなじ原理。こういう人工的な画質を創作に役立てるひともいるだろう。
Retinette + Schneider Reomar 45mmF3.5 / FUJICOLOR Reala ACE

(C)Keita NAKAYAMA



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戦後ドイツ製の中級カメラ二態。画面下のレチネッテはドイツコダックが高級機「レチナ」の下位シリーズとして展開したもので、コストのかかるフォールディング機構を廃して蛇腹を金属固定鏡胴に置き換えている。姉のレチナと同様にレチネッテもバリエーションは多く、この個体は1954から生産されたタイプ022と呼ばれるモデルでシンクロ接点を持たない最初期型だ。ご覧のように塗装は剥げ剥げだが、低速シャッターをはじめ機関は絶好調。
(C)Keita NAKAYAMA

『ハレ、時々クモリ #6』

 旧いレンズには独特の味がある。よく言われることだけど、食べ物と違ってこの味わいを言葉で表現するのはむつかしい。というより、誰もが納得するような普遍的な表現はあまり見あたらない。わざわざ表現しなくても写真に語らせれば事足りるからだろうか。
 とはいえ、キャリアの長い愛好家が口を揃えて賛美する事象には、どこかに共通点がある。それはある種のレンズが醸し出す空気感であったり、画面から立ち上がるような立体感であったりする。こうした特性は必ずしもレンズ構成と結びつくものではないけれど、なかには「やはりこの構成ならでは」と思わせるものもある。
 その代表例が、石清水のように清涼な絵をつくる魔法の三枚玉、トリプレットレンズである。

 三群三枚のトリプレットレンズの歴史は古く、その起源は1893年に英国のテイラー兄弟が特許を取得した「クックレンズ」に求めることができる*。おなじ時代にこれよりも枚数の多いレンズはつくられていたものの、彼らのコンセプトがその後に一種の普遍性を持ち得たのは、必要最小限のレンズ構成だけが持ちうる純粋性ゆえだろう。
 周知のように、トリプレットは中央の凹レンズを前後の凸レンズでサンドイッチしたシンプルな成り立ちを持つ。もちろんこれで写真画質に必要な収差補正が万全なわけではなく、一般には画面周辺部の結像が甘くなる(特に絞り開放付近)といわれる。つまり画面中央部のピントを優先した割り切りの設計なのだ。

 テイラー兄弟のトリプレットはその合理性を買われ、昔から多くのメーカーが廉価版カメラレンズにこの構成をもちいてきた。レンズ銘にラテン語数字の3である「tri」を捩った製品も多く、マイヤ(メイヤー)の「トリオプラン」やツァイスの「トリオター」などは有名だ。敢えて三枚構成をウリにするのも不思議な気がするが、これは上級レンズとの差別化か、あるいは写真表現を知り尽くした通人にこのシンプルな構成の良さが知れわたっていたということか。
 あいにく通人ならぬ半可通な僕は、トリプレットとは縁がなかった。それは安価なレンズを馬鹿にしていたということではなくて(安いものは大好きだ)、画面の端に主要被写体を置きたがる自分の性癖に照らしたためである。「いくら抜けが良くても周辺のピントが弱いレンズじゃなぁ」と、アタマのなかで勝手に考えていたのだ。

※制作協力:脊山麻理子

*注:テイラー兄弟(兄ウイリアム・テイラーと弟トーマス・スミサーズ・テイラー)は英国の機械メーカー、テーラーホブソン社の創設者。同社は1886年にテーラー、テーラー&ホブソン社の名で創立され、第二次大戦以前は写真・映画用レンズの開発製造で名を馳せた。ライカの大口径標準レンズ「ズマリット」にもこの社名が刻まれたものがあり、これは同レンズの設計に関してテーラーホブソン社が英国特許を取得していたためである。写真愛好家には馴染み深い社名だが、その事業は測定器や工作機械など多岐にわたり、変わったところではゴルフボールのディンプル加工のパテントホルダーとしても知られている。


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2006年01月11日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部