* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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ズミクロン50ミリの開放で。本来なら一絞り分明るいズミルクスを選びたくなる場面だが、進化した高感度フィルムのお陰でF2でもまったく問題なく撮れる(SLの焦点板でイチヨン開放の近接はほとんど実用にならない)。
Leicaflex SL + Summicron 50mmF2 / FUJICOLOR NATURA 1600
 (C)Keita NAKAYAMA



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夜の商店街にて。こういう条件でもフレックス系ライカならブレ写真に逃げずに済む。静粛な布膜横走りシャッターとショックの小さいミラー、そして過大なボディの質量の恩恵である。
Leicaflex SL + Summicron 50mmF2 / FUJICOLOR NATURA 1600
 (C)Keita NAKAYAMA



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ズミクロン50ミリ初期型を装着した初代ライカフレックス。ペンタ部前面の四角い窓が問題の外光式露出計受光部で、その隣の丸い蓋は電池室カバー。おなじ時期にTTLを採用した日本製一眼レフに比べると、この部分はカメラというより戦車のような造作である。ただし全体のつくりは素晴らしく、各部の精度感と操作感触はライカの名に恥じない上質なもの。特に巻き上げの感触はライカ一眼レフ中の白眉だろう。妥協を排したメカニズムの見返りは質量(と高価格)に反映され、この状態で重量は1150グラムに達する。
(C)Keita NAKAYAMA

『サンクチュアリ #4』

 ドイツ人はひとつのことを長く続けるのが好きなひとたちだ。ときにはそこに慣性の法則がはたらいているのでは、と思えるほどの長さになるものもある。ワーゲンの旧ビートルしかり、ワーグナーのオペラしかりである。
 そういえばモーツァルトのピアノ協奏曲20番はピアノが入るまでが無闇に長い。仕事用のパソコンに入れてあるバレンボイム=ベルリンフィル盤(1990年)でいえば、第一楽章の2分25秒でようやくソリストが弾きはじめる。そこまで主役が気を持たせているわけで、イントロからピアノがオケ伴に回るチャイコフスキーの1番なんかとは好対照である。
 オケが長々と引っ張っても、そこでソリストに美しくバトンを渡せればいい。でも慣性があり余れば惰性に堕ちる。「ドイツもの」はそのつくりが重厚なだけに、いったん動きはじめると途中で流れを変えるタイミングを失うことがままある。小回りのきく日本の文化やものづくりとは、これも好対照といえる。

 そういうお国柄を考えれば、初期のライカ一眼レフはずいぶん速いペースでモデルチェンジしたようにみえる。なにしろ初代のライカフレックス登場からわずか4年で、次のモデルを投入したのだから。「4年も引っ張れば充分だろう」という声も聞こえてきそうだけど、あの時代と製造元の体質と開発コストを考えれば、優に倍の時間がかかっても不思議はなかったのだ。
 時間とお金を削ってでも(?)次世代機に早めにバトンを渡そうとしたのは、当時のライツ社には顧客に気を持たせる余裕などなかったためである。主要マーケットたる米国市場では日本製一眼レフの攻勢が続き、ライツの屋台骨を支えるM型の売れ行きも右肩下がりの傾向が続いていた。
 そして低迷するライカフレックスに寄せられたユーザーの不満は、先に触れた露出システムだけではなかった。なんとしたことか、このカメラはファインダー視野の真ん中でしかピントを合わせることができず、そして絞りによるボケ量の変化も観察することができなかったのだ*。
 おそらくライツの技術者は、初の一眼レフに「M型ライカのファインダーを載せる」ことを意図したのだろう。確かにライカフレックスのファインダー視野は、M型とまではいかないものの、一眼レフとしては驚異的な明るさを誇っていた。画面中央でしかピント合わせができない件も、大半のユーザーには許されたかもしれない。M型をはじめとする距離計連動機は、それでじゅうぶん実用になっているのだから。
 だが視野の大部分が素通しに近い空中像で、被写界深度の確認もできないファインダーでは、そもそもM型が苦手とする接写などの用途に対応できない。これでは自社内にふたつのシリーズを持つ意味も薄れるし、顧客が期待する高級一眼レフのイメージにもそぐわないだろう。
 折しも市場では日本のメーカーが壮大なシステムの幻想をばらまき、高級一眼レフ=万能システムカメラという図式が浸透しつつあった。そのいっぽうでライツは実直に足下を固めながら、我が道を進んでいたようにも見える。だがもしそうだったとしても、やはりその視野は狭すぎたのである。

※制作協力:脊山麻理子


*注:ライカフレックスのファインダーは視野中央部(実際には少し下に寄っている)の円内のみにマット面が設けられ、他はフレネルレンズを使った透過式である。つまり視野の大半は「素通し」に近く、レンジファインダーカメラと同様に被写界深度の確認はできない。この種の焦点板は現代でもシステム一眼レフのアクセサリーとして用意されているが、用途はかなり限定される。


2006年02月22日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部