* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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絶対音感を持つピアノ弾きはどこででもチューニングができる。いつまでたっても体感露出が当たらない僕には羨ましい限り。
Leicaflex SL + Summicron 35mmF2 /FUJICOLOR Reala ACE
(C)Keita NAKAYAMA



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19ミリは「はじっこを使わずに絵をつくる」のが自然に見せるポイント。フレットラインの強いパースで撮影距離が分かるだろうか。
Leicaflex SL2 + Elmarit 19mmF2.8 / FUJICOLOR Reala ACE
(C)Keita NAKAYAMA



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国産機に比べてシステム性に乏しいライカフレックスだが、ひと通りの周辺機器は揃っている。これは接写にもちいるベローズで、実はM型のビゾフレックス用。ボディ側にはM/Rアダプタ(14127F)で接続、マクロエルマー65ミリレンズは16556リングを介して装着する。ベローズ本体は後年のRシステム用より上質なつくりで、またM型の望遠系レンズヘッドが使えるというメリットもある。こういうイレギュラーな組み合わせで遊べるのはライカならでは、TTL測光のおかげで撮影もストレスフリーだ。
(C)Keita NAKAYAMA

『サンクチュアリ #9』

 もう二十年ちかく前の話だが、ある自動車メーカーのエンジン設計者にお話を伺ったことがある。雑談まじりにドイツ車の技術に話がおよんだとき、「目標はやはりBMWですか」という僕の問いに相手はしばし口をつぐんだのち「ああいう過剰な設計はもう旧いでしょう」と切り捨てた。
 なにが過剰かといえば、マージンを取りすぎているというのである。「たとえば3シリーズの直4エンジン。あれは鋳鉄ブロック(エンジン本体を軽合金ではなく鉄の鋳物でつくる)なんですが、F1のエンジン*にも使えるほどの強度があります。でもセダンにはあきらかにオーバースペックですね」という。
 当時の日本車は軽量化を目的に、エンジンにもFEM(有限要素解析法)を駆使したコンピュータ支援設計を盛んに採り入れていた時期だった。そういうバランス指向の設計現場からは、必要以上の強度を持たせた、つまり結果として重いエンジンはアウト・オブ・デイトに見えたのだろう。
 だがそのエンジンはまるで直6のようにスムーズに回り、かつ直4ならではのシャープな吹け上がりと硬質な回転感覚で愛好家をおおいに魅了していたのだ。当時の国産量産エンジンではどうしても出せなかったフィーリング、その秘密は過大な質量の鋳鉄ブロック(機械的な共振点はアルミ合金よりずっと低くなる)に支えられた精度の高いムーヴメントにあるのではと、僕は素人ながらに思っていた。
 あいにくエンジニア氏とはそれ以上突っ込んだ話はできなかったけれど、金属への一種過剰な信仰に支えられた? ドイツ的な設計は、中庸を重んじる日本人の感覚とはなかなか相容れないもののようだ。

 さて、いつものように本題から逸れた話をもとに戻そう。いま僕の目の前にはライカフレックスSLとペンタックスESII、それに知人から借用中のニコンF2がある。70年代前半のカメラ市場を賑わせていたこの三機種を比べてみると、それぞれのポジションと狙っていたユーザー層が見えて興味深い。
 手にして軽いのはペンタックスだ。これは当時の旭光学が小型軽量を旨としていたためで(その伝統は今に引き継がれている)、自動露出機構を内蔵したESIIはすこし背が高くなってはいるものの、ボディは他の二台よりひとまわり小さく扱いやすい。ニコンはボディの小型化をニコマート系に任せたため、F2は職業写真家向けに妥協のない設計で、結果として大柄な体躯となった。特に横幅は三機種中もっとも広い。だがこの国産二機種にはどこか共通した部分があり、手に持った感触も似ている。
 他方ライカは前面投影面積で前二者と大差はないものの、掌をずしりと押さえつけるボリューム感に圧倒される。それは分厚いボディに因るものなのだけど、たんに厚みを増したのではなく、背面を弓なりに反らせ立体的な形状としたところがユニークだ。一眼レフがボディ前面にグリップを配したのは80年代からだと思うが、それ以前に厚みを連続的に変化させるという発想は、すくなくとも国産一眼レフでは例が無さそうだ。
 なぜこういうデザインが導き出されたのか、そこにはいかにもドイツ的な発想がある。

※制作協力:クニトウマユミ

*注:1982年〜86年の間にブラバムおよびベネトンF1に搭載されたBMW M12/M13エンジンを指す。F2用エンジンとして実績のあった市販車用の直列4気筒・2リッターのエンジンブロックを流用、ストロークを縮めて容積を1.5リッターに減らし、これにターボチャージャーを組み合わせて600馬力の出力(過給圧を上げた予選時には実に1500馬力、つまりリッターあたり1000馬力!)を得ていた。


2006年04月19日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部