* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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中望遠レンズは背景のボケが命? そういうことをあまり気にしない僕でも、この描写にはやはり見入ってしまう。
Leicaflex + Summicron 90mmF2 / FUJICOLOR SUPERIA Venus400
(C)Keita NAKAYAMA



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上掲作を拡大(わずかに前ピン)。繊細で優しい合焦面からなだらかにボケていく様子が分かるだろうか。
Leicaflex + Summicron 90mmF2 / FUJICOLOR SUPERIA Venus400
(C)Keita NAKAYAMA



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次回からの本編では読者より要望の多かった国産カメラを採り上げます。昭和二十年代からはじまる大衆カメラの物語、ご期待ください。

『サンクチュアリ #23』

 フレックス系ライカの系譜を書いていたら随分と余分に項を重ねてしまった。準備と計画が足りないところはいつものこととはいえ、重複した記述も多々あって読みづらかったことと思う。これは書き始めてから入手した機材が多々あったことにも因るのだが、書き手としても撮り手としても未熟なところで、この場を借りてお詫びしておきたい。
 最後に、これからこのシリーズを手に取る方のために少しばかり助言を記しておこう*。

 フレックス系ライカは大きく分けて三機種からなる。初代のライカフレックスには前期型と後期型があり、これは外観意匠に多少の異同がある以外はさほど大きな違いはない。後期型は巻き上げレバーと露出計スイッチが連動する(前期型は常時通電状態となる)など機能面の改良もあるものの、手の込んだ工作という面では前期型に軍配が上がるようだ。
 電池寿命については実用上はどちらでも支障がないようだけれど、この機種を選ぶ場合はライカ社による正規の修理サービスが打ち切られていることに留意されたい。去る二十世紀の終わりに、ライカ社はこのカメラについて「補修部品払底により修理不能となる場合があります」とアナウンスしたのだが、これはライカの歴史上初めてのことなのだそうだ。
 二代目のSLは(本稿で長々と記したように)ピント合わせの問題が残る。特に広角系のレンズではかなり使いにくいカメラになるので、これは撮影目的や撮影スタイルとよく相談された方が良いと思う。露出計は優秀だが低照度側に測光レンジが狭いため、暗い場面でスケールアウトすることも多い。とはいえ、旧いカメラに慣れている方ならさほど痛痒は感じないだろう。
 最後のフレックス系たるSL2は、先代の欠点がほぼ払拭された完成度の高いカメラである。「ほぼ」というのは焦点板にまだ若干の問題を残しているためで、やはり周辺部のマット面(正確にはマイクロプリズム面)での合焦は楽ではなく、またSLと同様に被写界深度が深く見える傾向がある。だから中央のスプリットプリズムに頼ったピント合わせをすることになるのだが、これは考えてみれば初代フレックスと大差がない。
 つまり初代フレックスからSL2に至る三機種の機能的な違いというのは、実際にはスペック上の印象よりずっとちいさなものである。露出計については確かに進歩しているとはいえ、今のカメラに比べれば大騒ぎするほどの違いでもない。だからこの三機種の中から一台選べ、といわれたら、僕は迷わず初代フレックスを取る。それはもっとも感触が好く、撮っていて気持ちの良いカメラであり、なおかつ何時持ち出してもある種の感慨を与えてくれる。往時のカメラづくりに思いを馳せることができる、いわばある種の文学のように「読後感の良い」カメラだ、と書いたらご理解いただけるだろうか。
 そう、フレックス系ライカは文学に喩えれば、それは決してベストセラーではない。だが長く読み継がれるに相応しい作品である。工業製品を「作品」と書くことの愚かしさはよく分かっているつもりだけれど、それでも僕はこの二文字を往時のライツ社技術陣に献じたくなる。なぜならそれは、二度とふたたび造られることのないカメラたちだからだ。

 ライカフレックスの総生産台数は37500台。同SLは72000台弱、SL2は26000台弱が世に送り出されたという。その多くは今も現役で、職業写真家と写真愛好家の佳き道具として活躍している筈である。

制作協力:脊山麻理子

*注:本文に書き漏らしたことをふたつ。フレックス系ライカはペンタプリズムの蒸着が弱く、保存環境によっては視野に翳りや染みの出ている個体が多い。また樹脂部品の品質が低いことも問題で、特にSLとSL2では経年変化でレンズ脱着ボタンなどが折損する場合がある。この点は初代フレックスではあまり問題が生じない(樹脂パーツがほとんど使われていないため)。


2006年08月30日掲載

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