* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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目測カメラは久しぶりだが、幸いにも勘はそれほど鈍っていなかった。いちど身につけた測距機能はなかなか錆び付かないものらしい。
Pigeon 35+ Tomioka S-Lausar 45mmF3.5 / FUJICOLOR Reala ACE
(C)Keita NAKAYAMA



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画面中央でのピント合わせにとらわれず、自由に作画できるのが目測機の美質。ピントの歩留まりに目を瞑れば撮影は快適だ。
Pigeon 35+ Tomioka S-Lausar 45mmF3.5 /FUJICOLOR Reala ACE
(C)Keita NAKAYAMA



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シンプルで力強い造形のピジョン35。子細に観察すると外来種からの引用が目に付き、また各部材の仕上げもバラバラだ。つまり相当に「ちぐはぐなデザイン」なのだが、引いて観ると不思議な塊感がある。金属鏡胴がレンズの口径に対してアンバランスに太いのは、当時主流だった蛇腹カメラに対抗する新世代性のアピールだろうか。鏡胴にあしらわれた赤青の「ハチマキ」については後述。

『鳩によせて ー或る戦後国産カメラの物語ー #2』

 洪水の船から脱走したのち、布教活動用のキャラクターとしてリクルートされた鳥のその後は、こんにちよく知られるところだろう。それは神の使いから、平和そのものの象徴に出世したのだ。
 では鳩はいったいいつ頃に平和のシンボルとして認知されたのだろう。ものの本に拠れば、それは先の大戦後であるという。1949年からパリで連続開催された国際平和擁護会議のポスターを、かのピカソが請け負い、鳩を主題とする連作に仕上げた*ことでこのイメージが広まったのだそうだ。この定説が正しいとすると、鳩と平和の結びつきにはわずか半世紀の歴史しかないことになる。
 ここで注意したいのは、平和の鳩のイメージが、例のオリーブの枝葉とセットになっていることである。事実ピカソはこの組み合わせを何度か描いているのだが、それは「ひと筆描き」のようなシンプルなイラスト図案で、上記のポスター用に描いた鳩(書き込みの多いリトグラフ)とはテイストを異にするものだった。またパリ会議ポスターの鳩はくちばしになにもくわえていなかったし、この数点のポスターを目にしたひとが、当時の世界にどれだけいたかも不明である。
 重箱の隅をつついて鬼の首を取るつもりはないけれど、言いたいのは鳩とオリーブをセットにした「ステロタイプな平和イメージ」の直接の仕掛け人はピカソではない、ということだ。ではあのイメージは、いったいどこで、どうやって刷り込まれたのか。

 ここでお話は極東の島国に移る。スペインの天才がパリでポスターをものしたそのすこし後、この国が敗戦の痛手からようやく立ち直るきっかけを掴みかけた頃、おなじ鳩のイコンが話題を集めていた。それはわずか数センチ四方のパッケージの図案である。
 昭和26年、当時の日本専売公社(現・日本たばこ産業)は、終戦翌年に発売された両切りタバコの意匠変更に着手する。発売からわずか5年でデザインを全面的にやり直したのは、さいしょのパッケージが外国製品のそれに類似していたためという。当時の日本ではさほど問題にならなさそうな話だけど、たぶんこのタバコは輸出商品として、貴重な外貨をもたらすために企画されたのだろう。
 採用された図案は気品ある濃紺の地色に、渋い金色であしらわれた鳩(くちばしにはちゃんとオリーブをくわえている)と、「平和」を意味する白抜きの英字。半世紀を経た今なお色褪せないデザインを担当したのは、なんと米国の著名なデザイナー。のちに「口紅から機関車まで」の惹句で知られる天才、レイモンド・ローウィそのひとであった。

 戦後の混乱がまだ続く時代、ひとびとは一服のタバコに慣れない自由を実感し、そこから新たな欲求が芽生えていく。プライベートな時間を映像に記録するという自由と贅沢、それには誰もが容易に手に取れる道具が必要だった。

※制作協力:脊山麻理子


*注1:この会議は戦後にすくなくとも三度(1949年、50年そして52年)開催されており、ピカソはそのすべてのポスターを担当している。この三種類のポスターの図案についてはWeb上で「World Congress of Peace Partisans Paris Picasso」をキーワードに検索すれば容易に閲覧できる。

**注2:レイモンド・ローウィ(1893-1986)はフランス系米国人のデザイナー。出自はグラフィック畑で、のちにインダストリアル(工業)デザインにも活躍の場をひろげる。代表作は枚挙に暇がなく、特に乗り物系の流線型デザインで一世を風靡している。写真の分野では米アンスコ社の「アンスコフレックス2」が知られている。


2006年09月20日掲載

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