* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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古民家の窓辺で、夕暮れに。絶対的な光量が不足する条件でも現代の高感度ネガフィルムなら絞りを開けずに済む。
Pigeon 35+ Tomioka S-Lausar 45mmF3.5 / FUJICOLOR NATURA 1600
(C)Keita NAKAYAMA



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背景をぼかすか、画面全体を甘く写すか。フィルム感度に頼りすぎない方が結果が良いこともある。
Pigeon 35+ Tomioka S-Lausar 45mmF3.5 / FUJICOLOR NATURA 1600
(C)Keita NAKAYAMA



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裏蓋はこのように底蓋と一体で外れるコンタックス方式。ボディはアルミ合金を一体鋳造しており、二次加工は部品組み付け用のネジ穴とフィルムガイドレール部のみだろうか。空気室の多い構造だが鋳造面の仕上げや黒色塗装の品質はそれなりに高い。ただしフィルムゲートに僅かな出っ張りがあるなど詰めの甘い部分もある。全体の仕上げはフラッシュガン(何とバウンスも可能)の方がずっと精密感があり、このあたり製造年次の隔たりを感じさせる。
(C)Keita NAKAYAMA

『鳩によせて ー或る戦後国産カメラの物語ー #8』

 この項も指折り数えて今回で8回目。絵画や歴史のことばかり書いていないで、そろそろ主役の話をしないといけない。そう思いつつ、ついつい背景の描き込みに熱中するのはいつもの悪い癖である。
 でもカメラのことなら僕よりもずっと詳しいひとがたくさんいる。特に国産大衆機の分野は「俺はこのカメラで育ったんでぃ」という筋金の入った方が多くて、僕みたいな新参者はどう逆立ちしても敵わない。いやそれはどのカメラの分野でもいっしょで、おなじ機種を何台も所有している方に出くわすことも多い。そういうひとたちに話を伺うと、個体ごとの微妙な違いにも精通されていたりして、テキトーなところでお茶を濁している自分は我ながら半端だなぁ、と思う。
 そう、カメラによらず昔の工業製品はバラツキが多かった。これはあらゆる部品や工程が厳密に規格化された今の工業界に対し、あきらかに前時代的な手法がまかり通っていたということの証でもある。ではそれはどういうところに看て取れるだろう。

 ピジョン35というカメラについていえば、製品そのものに手造り感はあまりない。すくなくとも外装は現代のそれとさほど差のない技術によってつくられたもので、贔屓目抜きになかなかよく出来ていると思う。このカメラの金属部分はおもに三種類の素材が使われていて、軍艦部と底蓋は真鍮のプレス部品、シャシーはアルミ合金の鋳物、そして裏蓋は鉄製のプレス部品だ。
 このうち軍艦部と底蓋のプレスには工程を簡略化する工夫があって、それは別体の部品を要領よく組み合わせていることからも明らかである。具体的にはあの東京都墨田区は岡野工業的な深絞り加工*を意図的に避けている。たぶんコストと相談した結果なのだろうけど、部品の合わせ精度も悪くないし、鏡胴まわりのエングレーヴ(文字や数字の彫り込み)などは見事な出来映えといって差し支えないと思う。
 また表面仕上げの梨地メッキも時代を考えればじゅうぶんに上質といえる。たぶん下地の上にニッケルメッキを施し、その上からクロームメッキで処理したものと思うが、メッキ層の厚みも均質だし表面硬度もよく取れている。戦後間もないころのライカIIIDやコンタックスIIa/IIIaなど、メッキ層が薄くて手擦れする部分はすぐに下地が出てきたり、表面が荒れたりしたものだ(などと書くとリアルタイムで観てきたみたいだけど、これは現存する個体にいろいろ触れてみた感想です、念のため)。

 やや時代を感じさせるのは、こうしたプレス部品とシャシーダイカストの面に不揃いな部分が散見されるところだ。いや合わせの精度そのものは必要にして充分なレベル(この精度が出ていないと光漏れなどのトラブルに直結する)なのだけど、外装の折り曲げ面の角度が部材ごとに微妙にズレているところを無理に辻褄あわせしていたりして、それが製品全体の精度感を損ねる元凶になっていたりする。
 例によって重箱の隅をつつくような話だけど、僕にはこのあたりが妙に面白く感じられる。なぜかというと、今の量産向け規格品との差がいちばん出るのがこういう部分だからだ。もっと具体的にいえば、これはNC工作機械に取って代わられる前の、いわば職人仕事の結晶だからである。


制作協力:クニトウマユミ
撮影協力:いろりの里 高尾山名主「ごん助」


*注:岡野工業株式会社=携帯電話用電池ケースの一体成型技術で世界的に有名な町工場。ジッポーライターの下請け生産で培った技術をハイテク部品に応用したことで一躍名の知れる存在となった。ちなみにカメラの外装部品にそこまでの深絞りが用いられることは先ず無いものの、初期のM型ライカの軍艦部などは相当に手の込んだプレス工程を経て造られていた。


2006年11月22日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部