* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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快晴の日中でもこんな調子の写真が撮れる。なんて素敵なんだろう。
Meopta Opema Ia + Largor 30mmF6.8 / FUJICOLOR Reala ACE
(C)Mayumi KUNITOU



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半世紀分の光が詰まったみたいなレンズである。
Meopta Opema Ia + Largor 30mmF6.8 / FUJICOLOR Reala ACE
(C)Keita NAKAYAMA



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フレンチブルーに塗り直したオペマl型はちょっとレトロモダンなタイムマシンになった。レンズのラルゴールは完全対称形で、ツァイスのトポゴンや旧ソ連のオリオンとおなじ形式。つまり航空測量用レンズの末裔である。このレンズは距離計に連動しないから、僕は目測専用のl型ボディに付けたままにしている。専用の外部ファインダーは素晴らしい工作。メオプタのカメラのことはまた稿を改めて書いてみたい。
(C)Keita NAKAYAMA

Special Edition 『夏への扉(2)』

 フィルムを詰めたままのオペマのことを、べつだん忘れていたわけではない。塗り替えたボディとおなじ色の布の袋に入れて、仕事机の横に置いてあったし、真っ赤な手製のストラップはいつも目に入っていた。
 にもかかわらずこのカメラを持ち出さなかったのは、ちょっとした訳がある。まぁ今年一年は前半がライカの一眼レフを、後半は例の鳩カメラを研究していたこともあって、プライベートな写真をあまり撮っていなかったりする。いろんなカメラを同時に使うひともいるけど、僕はひとつのモデルを集中的に使う方なのだ。
 とはいえ、未露光のフィルムを詰めっぱなしにするのはあまり褒められた行為ではない。たとえ使用期限が切れていなくても、いったんカメラに装填したフィルムにはどんな変化が起きるか分からない。まして旧いカメラボディとなると、微妙な光漏れもあるかもしれない。なるべく早めに撮りきって速やかに現像に出して、化学的に安定した状態にしてやることが望ましい筈である。
 そうこうしているうちに一年が過ぎて、ハシバミ色の瞳からお誘いがかかった。なんでもショートムービーに出演して、その上映会があるという。僕のなかで手作りの映画といえばイメージはシュヴァンクマイエル、つまりチェコだ。とたいした脈絡もなくオペマを持ち出す。ついでにフィルムを撮りきって現像に出そう。

 さてそうやってようやく取り出されたフィルムには、ちゃんと1年前の光が写っていた。いや、記憶のなかのイメージよりもずっと時間を遡ったような風景がそこにあったといっていい。これは旧いレンズの所為か、それとも露光後に常温未現像で放置したため、フィルムに何らかの化学的な変化が起きたのか。
 原因はよく分からない。でも考えてみれば、昔の家庭ではカメラに詰めたフィルムをその日のうちに撮りきってしまうことは稀で、何日も何ヶ月もかけてゆっくり消費するのが普通だった。僕のオペマもそういう使われ方をされてきたと思う。そうして父親が撮りきったフィルムを現像して、ほら、あの日はこんな服を着てこんなところに行ったんだと、家族でちょっとしたタイムスリップに浸っていた筈なのだ。

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 タイムトラベル小説があまり書かれなくなった訳は、実はカメラの使われ方の変化にも似ているところがある。宇宙の仕組みが解き明かされるにつれ、現実の生活はどんどん速く流れ、時間そのものが早く消費されるようになった。そういうなかでは、何ヶ月も前の光景に思いを馳せる余裕もない。
 もしあの時にああしていれば、今の自分はどうなっていたか。そんなことを考えるよりも、ちょっと前のことを思い出して明日の予定を組んでいた方が、これはずっと前向きだし健全である。カメラの背面にメモホルダーが付いていたのは詰めたフィルムの種類を忘れないためだけれど、それが液晶画面に置き換えられたのは必然でもある。

 時間旅行をあつかった有名な小説に、ハインラインの「夏への扉」という一編がある。これはSFというよりほろ苦い青春小説のようなもので、それゆえに人気も高い。僕も一時期に愛読していたけれど、今はもう頁を繰ることがなくなった。その代わりに旧いカメラを持ち出しては昔っぽい写真を撮っている。
 果たしてどっちが健全かは分からないけれど、もし時計の針を戻して過去に行けるとしたら、カメラは忘れずに持っていこう。心のなかで「もっといい写真が撮れたはずなのに」と思っているあの時に。

制作協力:クニトウマユミ


2006年12月13日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部