* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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昼でも暗いビルの廊下で。最新の?感度フィルムのお陰で被写体のブレも自然に撮れる。
Pigeon 35+ Tomioka S-Lausar 45mmF3.5 / FUJI COLOR Natura1600
(C)Keita NAKAYAMA



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見事な描写のカラーヤシノン。70年代のファミリーカメラは侮れない。 Yashika Electro35GX + Color Yashinon 45mmF1.7 / FUJI CHROME PROVIA 400X
(C)Keita NAKAYAMA



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ピジョン35とヤシカ・エレクトロ35GX。世代の違う遠い親戚のような両機のレンズはおなじ血筋である。二十余年の時を隔て、国産大衆機は「ファミリーカメラ」という巨大な市場を築いた。撮影の機能面ではすでに世界最先端に到達したヤシカが、デザイン面で戦後ドイツ製品の面影を色濃く残しているのは歴史的にみて興味深い。このカメラを発売して数年後、同社は独ツァイスとの合弁で「コンタックス」ブランドを復活させることになる。
エレクトロ35GX機材提供;高崎元宏氏
(C)Keita NAKAYAMA

『鳩によせて ー或る戦後国産カメラの物語ー #11』

 カメラ産業をめぐる時代背景の話が続いたので、すこし写真機そのものの話もしておこう。
 ピジョン35の描写はなかなか味わい深い。これはこのカメラに積まれたトミオカSローザの性質だけではなくて、鏡胴やボディの工作に因るところも大きいようだ。具体的に記せば、逆光でハレっぽくなるのは反射防止コーティングの不備というより、鏡胴の内側と暗箱部分の迷光対策がじゅうぶんでないためである(暗箱部分は単純な平面に艶消しの黒塗装が施されたのみ)。
 逆光条件だけでなく、このレンズは全体にコントラストが低い。だから現代のレンズのようなつもりで露出を多めに与えるとカラーの発色は浅くなるし、モノクロはシャドーが締まらない。植毛紙を貼るなどの対策をほどこせばコントラストは上がる筈だが、機械が持つ時代性が失われることも肝に銘じておこう。
 レンズ構成はシンプルな三枚玉で、製造を担当した富岡光学はおなじシリーズ名を冠したレンズを同時代のいくつかのカメラに提供している。有名なのはトリローザ(Tri-Lausar)だが、これはトリプレットの意味だろう。ではSローザの「S」は? よく分からないけれど、おそらく前玉回転方式(レンズの一部のみを進退させてピントを合わせる方式:SはスクリューのSか?)を差別化したのではないだろうか。
 トリローザと比較した経験がないのでなんともいえないのだが、この前玉回転は撮影結果にけっこう影響をあたえているような気がする。特に被写体に近接した場合などは描写が甘くなる傾向があり、また陣笠状の歪曲収差もかなり強めに出る。
 とはいえ安価な大衆機のためのレンズだから、あまり重箱の隅をつつくのはどうかと思うし、こうした光学的な欠点をひとつひとつ潰していくと現代のレンズと大差なくなってしまう。旧い写真器材はその時代を偲びながら使うべきか、それは撮り手が決めることだけど、ピジョンにはピジョンの個性がある(僕は日本的に繊細で上品な絵をつくるカメラだと思う)。

 Sローザを製造した富岡光学は、おなじピジョンブランドの二眼レフ製造を担当していた八州(ヤシマ)精機とも関係が深く、昭和四十三年には八州精機が改組したヤシカの傘下に入って同社のカメラレンズの製造を一手に手がけることになる。ヤシカ製品といえばエレクトロ35シリーズが有名だが、独ツァイスとの合弁で再生したコンタックスのレンズも富岡光学が国産化を担当していた(現在は「京セラオプティック」に名称を変更している)。
 実は今回の連載をはじめてから、カメラ仲間諸氏のご厚意でヤシカ銘のレンズをいくつか試用する機会に恵まれたのだが、それらは世評に違わぬ素晴らしい描写性能であった。同時代のドイツ製品、いやたぶん現代の国産レンズと比較しても(順光で絞った条件なら)良い勝負ができるだろう。
 ただしこれは心情的なものかもしれないけれど、ピジョン35の描写が持ち合わせていた独特の個性、どこか日本の風景を思わせるような儚さは、それらのレンズからはほとんど感じることはない。昭和二十年代の国産レンズ設計の現場がどのようなものだったか、それは想像の域を出ないのだけど、たぶん手回し式の計算機で光線の追跡を行っていた筈で、計算が足りない部分には設計者の意志が(というより好みが)働いていたと思う。
 だとしたらSローザの描写に戦後日本の風景が重なるのも、あながち見当違いとはいえないかもしれない。

※国産カメラのお話はもう少し続きます。次号は恒例の新春プレゼントも用意。ご期待ください。

制作協力:クニトウマユミ


2006年12月27日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部