* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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順光で絞ればほとんど無敵のシュナイダー・クセノン。レチナのもうひとつの標準レンズ、ローデンシュトック製ヘリゴンと比べると鮮烈な解像感はこちらが上か(ただしヘリゴンには骨太な立体感がある)。
Retina IIIc + Schneider Xenon 50mmF2 / FUJICOLOR PRO400
(C)Keita NAKAYAMA



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上の画像から右上25%を拡大。レンズが磨かれた半世紀前にこの描写性能を堪能できたひとはいなかった筈。今のフィルムを使える僕らは幸せである。
Retina IIIc + Schneider Xenon 50mmF2 / FUJICOLOR PRO400
(C)Keita NAKAYAMA



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古典カメラの魅力を凝縮したようなレンズボードまわりの造作がいつ眺めてもため息を誘う。鏡胴最前部のローレット仕上げをはじめ各部の加工精度はきわめて高く、それが工業製品としての「美」を宿しているところが素晴らしい。ところで蛇腹機は通例レンズ固定式なのだが、このタイプのレチナには交換レンズ(35ミリと80ミリ)が用意された。ただしそれはレンズの前群(=シャッターユニットから前の部分)のみを交換する方式で、描写性と実用性(交換レンズ装着時には前蓋が閉じられない・距離計が使えない)はさほど高くないようだ。
(C)Keita NAKAYAMA

Special Edition 『或る日のカメラ散歩(2)』

 風の強い秋葉原を歩きながら写真を撮っていると、この街がずいぶん変わってしまったことを今さらながら実感する。僕が慣れ親しんだ電気街の面影はそこかしこに遺っているけれど、大店やちいさな電気店はパソコン関係のショップに変わっていたり、あるいは空き地になっていたりする。
 永らく放置されていた「やっちゃ場」(旧神田青果市場)の跡地には巨大なオフィスビルが建っていたし、昭和通り側には大型カメラ店が進出して、そのあたりの整然と整理された区画に立つと「ここって前はどんなだっけ」とアタマをひねる羽目になる。
 いっぽうで小規模な部品屋が寄り集まった雑居ビルはまだ健在だ。あの迷路のような電波会館の通路にもちゃんと活気が満ちていて、妙にほっとさせられる。アジア的なカオスを感じる市場というのは、日本にはもうここしか無いかもしれない。そんなことを考えながら旧いカメラで写真を撮る僕は、たぶん「こちら側」の人間なのだろう。

 2台のレチナは快調そのものだった。不調を訴えていたスローシャッターが薄暗い路地でもしっかり落ちる。ミラーを持たない距離計連動機、それもレンズシャッターを搭載した機種にはレリーズショックがちいさいものが多いけど、なかでもレチナの静粛感は格別だ。これはシャッターユニット(シンクロコンパー)の優秀性だけでなく、鏡胴まわりの部材の強度と組み付け精度が抜群に高いことの証左だろう。
 もちろんレチナとて実用面で現代のカメラに完全に互するというものではない。弱点は露出決定の仕組みがやや煩雑なことで、光量をLV値に置き換えてレンズ側にセットするという手順は、発売当時としては未来を感じるプロセスだったろうが、今となっては前時代的なお作法といえる。
 でもまあ、旧いカメラには大なり小なり不備があるものだし、それをひとつひとつ潰していけば理想に近づくというわけでもない。むしろ却ってつまらなくなってしまうような気がする。機械が自分よりも優れているなら、ぜんぶそっちに任せてしまえば良いわけで、だから欠点を承知で愛せるカメラを探すのが古典カメラ趣味の重要なポイントだ。

 露出についてもうひとつ書いておくと、このカメラに積まれている外光式露出計(かつて「寿命10年」と言われたセレン光電池を使用:驚くべきことに大半のレチナは露出計が生きている)の限界も知っておく必要がある。感度設定が旧いASAの倍数系列(80とか160とか)なのは、まあ気にしなくていい。測光レンジの狭さも「こういうもの」だと目を瞑ろう。
 注意すべきは露出計の指示値が光量差を完全に反映していないことで、たとえば室内で適正となるよう指針を更正しても、ピーカンの屋外に出るとまるでハズレを示したりする。これはセレンそのものの応答性がきれいな直線を描いていないことに加え、素子や機構全体の経年変化が影響しているのだろう。
 とはいえ、もともと外光式露出計はそんなに頼れるものでもない。だからメーターの誤差は製造元の免責事項で(製造者責任なんかとっくの昔に期限切れだ)、光を読んでメーター指示値に補正を加えるのは使い手の義務みたいなものである。いっけん便利な露出計は、実は撮影者の資質と習熟度を映す怖いバロメーターなのだ。

 今回の撮影でも2台がそれぞれ違う答えを出してきて、しかも単体露出計を忘れたものだから、これは大いに惑わされた。けっきょくカンに頼って「出た目」にLV2〜LV4程度の補正を加えたのだが、けっこうアタリが多く、カメラに「はい合格」と言われたようで嬉しかったりした。
 最新のパソコンが並ぶ店を横目に「キカイマカセも良いけど、偶にはこういう遊びもね」などとひとりごちたところで、まあ誰の耳にも届かない。でも自家発電式の露出計と対話しながらの電気街散歩というのも、分かりにくい洒落みたいでけっこうオツなものである。

制作協力:クニトウマユミ


2007年04月11日掲載

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