* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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長谷川工作所からの帰り道に、修理が完了したもうひとつのカメラで撮る。この旧ソ連製広角レンズは絞り開放でもピント面の解像感が高く、古典レンズとは一線を画す描写だ。
Nikon FE2 + Arsenal Mir-24N 35mmF2 / FUJICOLOR PRO400
(C)Keita NAKAYAMA



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旧ソ連製(正確にはウクライナ製)レンズを付けると、何故だか地下鉄で撮りたくなる。現代のカラーネガフィルムはご覧のように蛍光灯の色カブリがほとんど発生せず、人肌も自然に再現される。
Nikon FE2 + Arsenal Mir-24N 35mmF2 /FUJICOLOR PRO400
(C)Keita NAKAYAMA



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ニコンFE2とミール24N。この連載ではもっとも新しい部類に属するカメラとレンズだが、どちらも登場から二十年以上が経過している。カメラボディはここで書くことが無いほどポピュラーなもので、小型軽量のニコマート系列に属する名機である。対するウクライナ製レンズはやや大柄ではあるものの、この組み合わせのマッチングは視覚的にも重量バランスの面でも悪くない(絞り指標もファインダーで確認できる)。鏡胴の被写界深度表示とシャッターダイヤルの「A」マークの色が揃っているのは偶然だろうか。
(C)Keita NAKAYAMA

Special Edition 『或る日のカメラ散歩(3)』

 さて。2台のレチナにフィルムを何本か通したところで、陽も傾いてきたので地下鉄に乗って移動する。次の目的地は銀座線末広町駅からみっつめ、上野と浅草の中間の稲荷町である。
 全国にこの町名は数多い。それらはほぼ間違いなく稲荷神社がある町を意味しており、台東区のこの一角にも「下谷(したや)稲荷神社」という旧い社がある。ちなみにこの界隈、現在の行政区画では「台東区東上野」という素晴らしく味気ない名前が与えられている。
 お稲荷さんというのは日本古来の土着神、まあヤオヨロズのうちのひとり(狐のカタチをしているから一匹、と数えたらバチが当たるだろうな)である。下谷神社はけっこう知られた名所で、撮影にも適していそうだけど、この日の目的はお参りではない。いや、ある意味お参りに近いか。

 訪ねたのは地下鉄の駅にほど近い一角にあるカメラ修理工房。稲荷町という場所でピンと来たひとは、たぶん旧い国産カメラの愛好家だろう。そう、この街にはペンタックスの修理で有名な長谷川工作所があるのだった。
 僕がこの工房を知ったのは、カメラ仲間で機械技術者のIさんが推薦してくれたからだ。Iさんは自身でもカメラ修理ができる(僕のフレクサレットVIIを直してくださった)ひとで、修理業者の力量を見抜く眼力は確かなものがある。
 いらい長谷川さんのところには何度かお世話になっているけれど、前回の訪問からずいぶん間が空いているので道を一本間違えた。あるべき看板が見あたらないので「まさか、ひょっとして」と心配したけれど、次の路地で無事発見。ほっと胸をなで下ろす。
 なにしろ旧い国産機の修理は、請け負ってくれるところが限られている。特に電気(電子)回路を積んでからのカメラはハードルが高い。なぜって使われている電子部品の多くがカスタムメイドだから、パーツが無くなればそれでお終い、つまり故障は臨終と同義語になる。余談だが、カメラメーカーがロングセラーを廃番にする場合、協力会社からの部品供給打ち切りが理由に挙げられることが多い。こと修理という点では純機械式カメラ、それも旧い機種ほど蘇生の可能性は高いらしい。

 この日に長谷川工作所に持ち込んだのは「アサヒペンタックスESII」、絞り優先自動露出を積んだ国産一眼レフのハシリである。僕のESIIはクニトウマユミに半永久貸与中で、でもオートが効かなくなったので稲荷町に詣でたのだ。長谷川工作所はこのカメラの露出機構を修理できる、日本で数少ない工房のひとつである。
 でも修理を決めたのには別の理由もあって、ひとつには「直せるうちはとことん使う」という僕の信条(単なるケチではない:旧いカメラは修理に出すより別の中古品を求めた方が安く上がる場合が多いのだ)による。もうひとつの理由は、長谷川さんの人柄が素晴らしいからだ。
 実は僕のESIIはいぜんにも長谷川さんのお世話になっている。このときはミラーが上がったまま降りてこない、という症状で、それはオーバーホールで解決したのだけど、同時にペンタプリズムも交換していただいた。ESII時代のペンタックスのプリズムは固定用のモルトで蒸着が腐食するケースが多く、僕のESIIもファインダー視野に黒い線が出ていた。そこで別のSPIIを持参して「こっちから移植してください」と頼んだのである。
 こういうニコイチ修理は、店によっては断られるか、またはしかるべき修理代金が上乗せされるのが普通だ。分解組み立てが二台分になるのだから当然ではある。でも長谷川さんは嫌な顔ひとつせずに引き受けて、規定のオーバーホール料金しか請求してこなかった(これを読んで「あそこはニコイチオッケー」と早合点しないでください)。
 他では扱っていないカメラが、気持ちよく直して貰える。そういうところがあると分かっていれば、「直せるうちはとことん使おう」という気にもなる。

制作協力:クニトウマユミ


2007年04月18日掲載

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