* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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船宿で。久しぶりに再会した黒猫は元気に成長していた。
Fujica35SE + Fujinon 45mmF1.9 / FUJIFILM Neopan100ACROS
(C)Keita NAKAYAMA



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こちらはネガフィルムで。撮影時の光を思い出しながら色を調整した。
Fujica35SE + Fujinon 45mmF1.9 / FUJIFILM Neopan100ACROS
(C)Keita NAKAYAMA



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底面巻き上げの二機種を並べてみた。上のレチナはフォールディングタイプの最終型IIIC(タイプ028、通称「大窓」)。前に紹介した小窓のIIIcから距離計窓が大型化し、ファインダー視野には3種類のフレームが新たに内蔵された。露出計の受光素子も感度が引き上げられゲイン調整用の開閉蓋は廃止されている(これは小窓の後期型で実現)。どこか貴族的な雰囲気の漂うレチナに対しフジカ35が「平民的」なデザインに見えるのは、出自の差というより工業デザインの歴史の違いだろうか。
(C)Keita NAKAYAMA

『麗しき銀の弁当箱(2)』

 Web上で公開されている富士フイルムの社史を紐解くと、フジカ35は昭和三十年代の初頭からはじまったシリーズで、初代の35Mは昭和32年の発売。ということは今年でちょうど半世紀目にあたる。続く35MLがその翌年に、そして三代目にあたる35SEは翌々年の昭和34年に世に出た、とある。
 つまり毎年新製品を市場に投入していたわけで、しかもこれらのカメラはよくある小改変のマイナーチェンジではなく、撮影機能の根幹にあたる部分が飛躍的に進化していったのだから、当時の国産カメラはとんでもなく活力があったということだろう。

 僕の手元にやって来たのは、二度目のアップグレードを受けた35SE。このシリーズはその後に自動露出の方向に進化していくから、純マニュアルカメラとしてはこのSEが掉尾ということになる。
 例によって機能をデザインから観ていくと、見た目はわりあいにすっきりとまとまっていた35Mに対し、この三代目は物量投入という感じでかなりモノモノしい。それは軍艦部前面に置かれた大型セレン受光素子の拡散板が目立つためで、これを指で隠すと見慣れたレンジファインダー・カメラの姿が現れる。全体のフォルムとしてはM型ライカ、前板は距離計連動コンタックス、距離計窓の意匠はニコンSPに似ているだろうか。
 とはいえ、これらのカメラとはまったく違う意匠もある。それは巻き上げレバーを底面に追いやったことと、巻き戻しクランクを側面に(!)置いている点だ。前者はレチナなどに先例があるけれど、後者はこれが世界初ではないだろうか。しかもピント合わせは鏡胴のリングではなく、ボディ背面に覗いたダイヤルを回す方式。この三点はフジカ35シリーズに共通する強力なアイデンティティである。
 では設計者はなぜこんなヘンテコな、いぇ失礼、こんな風変わりな仕掛けをつくったのか。
 あいにくとすべての理由は定かでないけど、すくなくとも巻き戻し機構については想像がつく。距離計の基本性能を高め、それとレンズとの連動機構をボディを収めるために、巻き戻し機構のスペースを削ったのだ。
 フジカ35のファインダーはあのM型ライカ並み、とまではいかないけれど、当時の国産機としてはもの凄く凝ったつくりで(目に優しいブライトフレームもパララックス補正も付いている)、必然、光学系のブロックは結構なサイズになる。ところがフィルム室はその接眼部の真下にあるから、巻き戻しの軸を通すわけにはいかない。他の距離計連動機、例えばレチナなどのように基線長を縮めてしまえば解決するものの、それでは測距精度が足りなくなる。ということは、このシリーズは最初から大口径レンズを積むことが考えられていたのだろう。
 そこで考案されたのがクランクの側面配置ということだろうけど、これは設計者にとって「言うは易し、行うは」というアイデアである。なぜって回転軸を90度曲げるために使うベベルギア(傘型歯車)は機構的に無理を生じやすい。製造と組み立ての精度が伴わないとスムーズな作動はおぼつかないので、精密な作動感触が求められる部分にはあまり使われないギアなのだ。
 実は僕がフジカ35をここで採り上げることを決めたのは、何気なくこのクランクを回した時である。たいした期待もせずに回したそれは、良質の機械だけが持つ繊細で心地良い作動感触を指先に伝えてくれたのだ。
「たかが巻き戻し」と言われるかもしれないけれど、カメラを何十台も触っていると、些細なことで機械に対する認識が変わることがけっこうある。例のエンジニア氏が僕にこのカメラを授けてくださった理由も、たぶんそのへんにあるのだと思う。

制作協力:クニトウマユミ


2007年05月16日掲載

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