* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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モノクロは「露出と焼き次第」だがトーンはとても出しやすいレンズだ。42ミリの画角はけっこう使い勝手がいい。
Olympus 35SP + G.Zuiko 42mmF1.7 / FUJIFILM Neopan100ACROS
(C)Keita NAKAYAMA



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絞り開放で。ピント面の解像感は標準よりすこし低め、アウトフォーカス面のボケはちょっぴりクセがある。色乗りは浅めだがカラーバランスは悪くない。
Olympus 35SP + G.Zuiko 42mmF1.7 / FUJICOLOR REALA ACE
(C)Keita NAKAYAMA



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忘れ得ぬ名品。小型軽量機を得意とするオリンパスが1969年に発表した35SPは、当時としては中庸な(オリンパスとしては大柄な)ボディサイズの中庸なカメラであった。「偉大なるハーフサイズ」ペンシリーズの影に隠れた存在だが信頼性の高い露出計や使いやすい画角のレンズなど実用性は高く、古典カメラの入門機として魅力充分の存在だと思う。なお逆光には弱いのでなるべく大きめのフードを使いたい(画像の東独製フードは遮光性最高、ただしファインダー視野はけっこうケラれる)。
(C)Keita NAKAYAMA

『オールド・ルーキーズ(4)』

 それにしてもカメラにはいろんな評価基準がある。工業製品として見ればしかるべき設備を整えて精査する必要があるだろうし、表現の道具として捉えれば実写に勝るテストは無い。また愛玩の対象と割り切るなら写りなど二の次で、ブランドの知名度や見た目の佇まいがプライオリティのいちばん上に来て当然だ。
 カメラの使い手の気持ちも、たいがいは上の三つの評価軸の間を揺れ動いている。人それぞれ、それで良いのだと思う。でもメーターが一方に振れすぎていると思ったら、どこかで露出を取り直した方が良い。僕の場合はレンズを地面に向けるのだけど、国産の中級機もそういう存在かもしれない。

 さて、駆け足で紹介した昭和半ばの国産中級機、とりあえずこれが最後の機種である。「オリンパス・35SP」。小型軽量カメラの雄にして顕微鏡メーカーでもあるオリンパスが、大阪万博の前の年に発売した本機は、同社の歴史でもあまり目立った場所に置かれない地味な存在だ。
 なぜ目立たないかといえば、オリンパスには「ペン」と「OM」という二大看板が揃っているからである。この両機は米谷良久という天才肌の設計者のオーラといっしょに語られ、ライカでいえばバルナックみたいな物語性がある。そのこと自体が日本では希有な例だけど、オリンパス製品に特有のセンスは他のカメラにも息づいている。
 35SPをはじめて手にしたとき、といってもごくさいきんのことなのだが、僕が感じたのもこのセンスの良さで、それは言ってみれば「上質な中庸」という雰囲気だった。有能だけどスーツがちゃんと着れているエンジニア、みたいな、粋な理科系人のイメージ。日本だけでなく、海外製品でもこいうムードを漂わせるカメラは他に無いので、とても貴重だと思う。
 普通なら野暮ったく感じる弁当箱スタイルのボディも、何故かしら知的に見える。それはプレスラインやファインダー/メーターの採光窓の処理の巧さなのだろうけれど、それが無駄な飾りでなく必然性を感じさせるところが素晴らしい。またレンズシャッター機で煩雑になりがちな鏡胴部もよく整理され、露出オート(シャッター速度優先)からマニュアル露出への移行もとても自然にできる。
 露出計の受光部はこの時代の通例に反して、軍艦部向かって右端に置かれている。なぜレンズの前玉に並べた配置(通称「トップアイ」)にしなかったのか、それはたぶんこの露出計が平均測光とスポット測光の切り替えを採用したためだろう。オリンパスはこの時代からスポット測光の有用性に着目、いちはやく製品に採り入れたのだった。

 と、褒めてばかりいるけれど、欠点もないわけではない。それはファインダーの視野枠が固定式であったり、メーター表示がEV値直読であったり、またレンズの描写が絞り開放付近でやや甘め(これは欠点とは言い切れないが)であったり、逆光にはかなり弱かったりする、ということではない。古典カメラはそういうネガをぜんぶ潰してしまうと、意外につまらなくなったりするものだから。
 そうではなくて、このカメラへの不満は、そのつくりのバランスが良すぎるということだ。手に持ちやすい中庸なサイズ、クセのない描写のレンズ、そして扱いやすく整理がゆきとどいた操作系。どの面を取っても偏差値はソツなく高く、じっさいに撮影した結果も良い。
 にもかかわらず、というか、だからこそこういうカメラを手にすると、なんとなく「アガリ」みたいな気分になる。でも写真機はこれで充分とはまだ思いたくない。つまり「遅れてきた新人」とはカメラではなく僕の方なのだろう。

 というわけで、とても気に入った35SPは誰かに貸して、僕はもうちょっと刺激のある別のカメラ、たとえばフジカ35EEやコニカ・オートS1.6(両機ともに未紹介)あたりで撮ることにしよう。その結果はまた近々に報告します。


2007年07月25日掲載

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