* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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アーガスC3で。シンプルなレンズ構成は時に胸を打つ描写をみせる。
Argus C3 + Corted Cintar 50mmF3.5 / FUJICOLOR PRO400
(C)Keita NAKAYAMA



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逆光でのハレーションは多めに出る。この画像では多少補整を加えたが、画面下1/4程度はコントラストが低く色乗りが浅く、最端部はこれに周辺減光が加わって色が濁る。それでも全体の印象は不思議に悪くない。
Argus C3 + Corted Cintar 50mmF3.5 /FUJICOLOR PRO400
(C)Keita NAKAYAMA



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モダニズム建築カメラ・アーガスC3のシンボルは「惑星直列」。距離計とレンズの連携をここまであからさまにしたカメラは他にない。レンズ基部と距離計ダイヤルを結ぶ「伝達ギア」に見えるのは鏡胴固定用のリングで、本来のギアはこの下にある。アーガスC3はロングセラーとして知られるが、この個体は絞りの系列から50年代半ばの製造らしい。
(C)Keita NAKAYAMA

『贅沢な写真機(7)』

 米コダックが写真の大衆化を狙って投入した「コダック35」は、その低価格戦略によって「一躍ベストセラーとなる」筈だった。それはライカやコンタックスなど著名な輸入“コンパクト”カメラの、ほぼ三分の一かそれ以下の値付けだったのだ。
 もちろんコダック35はレンズ交換もできず、また距離計も積んでいないから直接の比較はできない。とはいえこの時代の大衆カメラはブローニー判が普通で、それらの多くもこうした機能は持ち合わせていなかった。だからコダックはドイツ生産のレチナと同等の、いやそれを一歩進めて金属固定鏡胴とした新製品に自信を持っていたことだろう。
 だがライバルは意外なところから現れた。コダックが本拠を置くニューヨークから1100マイルほど西のミシガン州で、驚異的な低価格カメラが開発されたのだ。売り出したのはアーガス社。ギリシャ神話に登場する「百の目を持つ巨人」の名を社名に戴く同社は、未だ創立後まもなく、にもかかわらず映像産業の巨人に敢然と戦いを挑んだ。というより、隙をついて出し抜こうとしたのかもしれない。何しろ彼らが手にした武器は“The Brick”つまり「ただのレンガ」だったのだから。

 そのカメラ、アーガスC3もまた、いかにもアメリカらしい特徴に満ちていた。先ず目を惹くのはデザイン。いやデザイン以外には語るところがない、というひともいるかもしれないが、とにかくいちど観たら忘れられない強烈な意匠である。それはバターの塊のように四角いボディにメッキの縁取りを施し、いろんな国のコインみたいに直径と厚みの異なる真円を「ただ貼り付けただけ」の造形なのだ。
 このカタチは、あるいはアーガス社の出自に関係があるのかもしれない。同社はラジオ製造会社の子会社としてスタートし、1939年のC3発売時点でまだ3年の歴史しか刻んでいない。だから親会社のデザイン部門からスケッチ画を一枚拝借して、またはヒマなデザイナーを借りて製品開発の時間を省略した。そういう話があってもデマカセと思えないほど、彼らのカメラは「カメラ離れ」していた。当時のアメリカ人はこれを写真の道具と見なせたのだろうか?
 意匠の話はさておき、カメラそのものを観察してみよう。機能から分類すると、これは「レンズ交換式連動距離計つきレンズシャッターカメラ」となり、カタログスペック上はコダック35を抜いて当時のバルナックライカに肩を並べる。標準装備のレンズは沈胴エルマーとおなじ「50ミリF3.5」(これはコダックも同一スペック)だし、ピント合わせと構図決定にそれぞれ独立したファインダーを持つ点もいっしょ。ゆいいつシャッター速度は1/10から1/300秒と、設定幅でライカIIICに敵わないが、こちらはレンズシャッターだからフラッシュ全速同調、しかもシャッター速度設定ダイヤルはモダンな「一軸不回転式」である。
 つまり文字や数字のうえでは、ライカもアーガスも大差はない。にもかかわらず、アーガスC3は先行するコダックを出し抜く低価格(当時の米国市場ではコダック35が$40、アーガスは$30ほどだったらしい)である。なぜそんなに安く売ることができたのか、それはC3がコダック35以上に合理化を突き詰めたカメラだったからだ。


制作協力:クニトウマユミ


2007年08月22日掲載

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