* 週刊フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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ネガカラーで。フィルムはナチュラルな階調再現で知られるプロ400だが、この色はまるでフォルティアみたいだ。レンズの所為なのかスキャナの設定か、原因は調査中。
AnscoflexII / FUJICOLOR PRO400
(C)Keita NAKAYAMA



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撮影レンズは単玉(二枚を接合したラピッド・レクチリニア型、という指摘もある)。下部にはクローズアップレンズとモノクロ撮影用Yフィルターを内蔵しているが、これは切り替え式で両方いっぺんに使うことはできない。レンズボードの装飾加工は航空機かヴィンテージカーの計器パネルのようでもあり、このあたりにデザイナーの意図があらわれている。「カメラ屋」が線を引いたらこういう造形にはならない筈で、やはりこれは異分野のデザイナーの造形だと思う。
(C)Keita NAKAYAMA





『贅沢な写真機(12)』

 アンスコフレックスにはアメリカ工業デザインのエッセンスがいっぱいに詰まっている*。いや、中身は空っぽにちかいけど、これほどデザインでひとを魅了するカメラは他にない。それは雑誌やwebへの登場頻度からも看て取れる。市場ではさほど人気がない(使用フィルムが絶版の620タイプのため)カメラなのに、なぜかメディアには引っ張りだこだ。それもこれも、デザイナーのローウィがこのカメラに振りかけた「デザインマジック」の所為だろう。
 じっさい、このカメラには写真が撮れなくても手元に置いておきたいと思わせる魅力がある。ガレージのシャッターみたいなレンズバリアに連動して立ち上がるピントフード(これは特許技術らしい)、真上から目を離して覗けるファインダー、そして内蔵式の補助レンズ/フィルターなど。そうした意匠や機構の工夫は、でも撮影結果にはあまり影響がないというか、実際にはそれほど精密な写真が撮れるわけでもない。にもかかわらずマニアの琴線に触れるところがあるとしたら、それはこのカメラの「カメラらしくなさ」が不思議な吸引力を発揮しているからだろう。

 さて、そうやっていろんなメディアで語り尽くされた感のあるアンスコフレックス2だけど、あまり触れられていない部分もある。それは全体のフォルムや各部材の意匠、それに使われた素材などである。実はこうした点こそが、先に挙げた魅力以上にこのカメラの本質を語っているような気がするのだ。
 アンスコフレックス2のボディには、大別して3種類の素材が使われている。まず合成樹脂(軽量な熱可塑性樹脂、たぶん戦後に開発されたポリスチレン)でシャシーをつくる。この射出成型品はかなり徹底した肉抜きがなされており、軽合金のダイカストや板金を組み上げたものより強度は落ちるが、部品はほぼワンピースの一発成型で済む。
 ふたつめはアルミ合金。滑らかな曲面で構成されたボディシェルはこの素材のダイカスト(一部プレス?)成型品で、すべての面には滑らかなカーブが与えられている。シャッターを引き上げると現れるレンズボードの化粧板もアルミ製だ。
 そして最後に鋼板(鉄素材)のプレス成型品。これは裏板と底板の補強板やピントフードなど、曲げ強度が要求される部材に限定して用いられ、重量の増加を極力減らす設計である。余談だがこのカメラの外装を「プラスチック製」「鉄板のプレス成型」酷い場合は「ブリキ細工」などと揶揄する記述を見かけるが、プラは外部に露出しておらず鉄板もほとんど使われていない。またブリキは錫めっきした鋼板のことである。
 アンスコフレックスの設計の巧みさは、こうした適材適所の素材選定だけでなく、たとえばプラ製シャシーとアルミ製の外皮を組み上げてモノコック形状とし、最終的に必要な強度を出している点にある。これは戦前のコダック35やアーガスC3などから明らかに進歩した素材/成型技術を駆使した結果であり、おかげで中判カメラにもかかわらず驚異的に軽くて強いボディが実現している。
 こうした設計手法はカメラではあまり前例がなかった筈だが航空機や自動車などでは常套手段ともいえ、この分野に豊富なノウハウを持つ設計者の手腕が看て取れる。やはり想像の域を出ないが、おそらくレイモンド・ローウィのオフィスはこの時点で外装デザインの枠を越え、生産デザインの領域にまでメスを入れたのではないだろうか。

 だが、ほんとうに素晴らしいのはこうした素材の使い分けではなく、それが総体として表現しているカタチだと思う。
 絶妙な膨らみを持つそれは、かつてアメリカの路上で頻繁に目にしたある乗り物? にも似ている。


制作協力:クニトウマユミ


*注:ところで「アンスコフレックス」にはふたつのバージョンがある。ひとつはモデル名の末尾に何も付かないモデルで、これは1954年の春から暮れにかけて少量が製造された。資料によれば末尾にローマ数字の2を付けているモデルとの違いは撮影レンズ下部に仕込まれたクローズアップレンズ/イエローフィルターの有無(初代は非装備)のみとのこと。市場ではほとんど見かけないので、外観の差異などご存知の方はご教授ください。


2007年09月26日掲載

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