* 連載フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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絞りF8、25分の1秒。被写体の動きを止めきれないシャッター速度が撮っていて愉しい。
Meopta Opema Ia + Largor 30mmF6.8 / FUJICOLOR SUPERIA Venus400
(C)Keita NAKAYAMA



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彩度が高めなビーナス400との組み合わせでも色乗りは絶妙に渋い。絞り開放の解像度は「睫毛がどうにか分離する」程度だが、そういう性能を求めるなら別のレンズを使うべき。
Meopta Opema Ia + Largor 30mmF6.8 / FUJICOLOR SUPERIA Venus400
(C)Keita NAKAYAMA



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こちらは最新設計の超広角レンズで。絞り開放からコントラストは高く、こんな天気でも暗部がしゃきっと締まって見栄えがする。半世紀前のラルゴールと大差の写り、同列に論じるべき製品でもないが、敢えて「どちらかを選べ」と言われたら?
(C)Keita NAKAYAMA

『オペマ日和(2)』

 チェコスロヴァキア製の写真機、オペマには7本の交換レンズが用意されていた、とされる。内訳は広角1種、標準3種、それに望遠系が3種。焦点距離にして30ミリから180ミリというラインナップは、製造年代(1954年から59年)と原産国の国情に照らせば、まあ頑張ったといえるだろう。
 ただしこのカメラの成り立ちから、望遠系はあまり実用的でない。またボディのコンパクトさを損ねる気もして、僕は広角と標準の4本を揃えたところで打ち止めにしてしまった。
 その4本それぞれの個性はまた別のところで書くとして、もっとも使用頻度が高い(というか、さいきんはほとんどこれしか使っていない)のは広角30ミリの「ラルゴール」である。このレンズは僕の手元にある物品のなかでは異例に稀少性が高く、総生産数は三桁の前半とも言われている。
 ただし、カメラやレンズには「製品のレア度と性能はほとんどの場合、一致しない」という法則もある。早い話、メーカーが僅かな数しかつくらなかった裏には、それなりの事情があった筈なのだ。
 ではラルゴールの事情とは何か。

 別の項でも書いたけれど、このレンズは独カールツァイス・イエナが戦前に開発した「トポゴン」というレンズの基本設計に基づいている。きわめて曲率の高いレンズを4枚、前後対象に配置する構成で、開放値が通常のレンズより3絞り以上も暗く、また極小のレンズエレメント(ラルゴールのエレメントは直径5ミリ程度である)を正確に組む必要から、製造管理はかなり難しくなるようだ。
 そうした事情とは別に、ラルゴールは実写でもかなり個性的な絵を提示する。ゼロに近い歪曲収差と盛大な周辺減光はトポゴンの設計に共通した属性だが、もうひとつ、コントラストがかなり低いのである。特に曇天や雨天、そして室内など光量が不足する条件では、暗部の締まりが不足して全体の調子が浮き気味の「眠い描写」になりがちだ。

 もちろん旧いレンズには何かしら欠点がある。だからこの種の古物に慣れたベテランは、欠点をカバーする方法を考える。開放値が暗いレンズには高感度フィルムを合わせればいいし、コントラストが低ければリバーサルを使うか、あるいは晴天専用と割り切ることだ。僕もそう考えて、オペマとラルゴールは晴れの日にしか持ち出さなかった。
 でもよく考えてみると、こういう使い方はプラス思考のように見えて、実は逆のような気もする。旧製品の欠点をどれだけ補ったところで、結果は今のレンズに届かないし、そんな使い方をしても愉しくない。旧いカメラで今風の描写を愉しむのも立派な趣味のありようだとは思うけれど、むしろネガティブな部分をポジティブに捉えることこそ、本当のプラス思考じゃないだろうか。
 と、なにやら立派なことを書いてるが、これはいつものこじつけ、言ってみれば「後付け」の理由である。前にも書いたように、僕はコントラストの低い絵、つまり眠い写真がけっこう好きなのだ。ただしそういう写真を撮る道具として、最新のレンズがあまり向いていないことに気付いたのは、古典カメラとネガカラーの組み合わせを使うようになってからだ。
 そして旧レンズが数あるなかで、このチェコ製広角レンズの「眠気」が格別に心地良いことを思い知ったのも、ごくさいきんのことなのだった。
 いつものこととはいえ、僕は気付くのが遅すぎる。

 秋の空は変わりやすい。ついさっきまで陽が射していたと思えば、いつの間にか雲に覆われている。そういうときの空気は、被写体との間に半透明のレイヤーを介したように眠く、優しく、美しい。だから徹夜明けの目をこすって、オペマにフィルムを詰めて出かける準備をする。
 今日も写真日和だ。


※米国製カメラ特集『贅沢な写真機』は近日中に再開します。

制作協力:山城優子


2007年11月21日掲載

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