* 連載フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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最短撮影距離は約2メートル。さらに近接する場合はビルトインのクローズアップレンズで1メートルまでピントが合う(らしい)。これはレンズ単体での撮影、顔がぎりぎりで被写界深度に入っている。逆光では盛大にハレるが、レンズが少し曇っているのかも。
AnscoflexII / FUJICOLOR PRO400
(C)Keita NAKAYAMA



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アンスコフレックス2とコダック・シグネット35。両機はほぼ同時期(1950年代)の製造で、デザインテイストもどことなく似ているところがある。シグネットは中判のシェブロンを縮小コピーにかけたようなカメラだが、凝縮感あふれる設計は名機の名に恥じぬもの。コダック社はこのカメラを最後に純・米国産高級機から撤退してしまう。
アンスコフレックス2/コダックシグネット機材提供:池田信彦氏
(C)Keita NAKAYAMA





『贅沢な写真機(13)』

 アンスコフレックスの話を書きかけで、二カ月ほど中断してしまった。かねてよりの疑問がなかなか解けなかったためだが、まことに申し訳ない。
 調べていたのはカメラではなく、クルマのことである。かつてアメリカの路上で頻繁に見かけられた銀色のモーターホーム、あれの構造がどうなっているのか、どうしても知りたかった。あのエッグシェル型の外皮の内側に、探していた答えがあるような気がしたからだ。
 けっきょくwebでは答えがみつからず、書籍を買い込むことで解決した。「エアストリーム」と題されたその本*には、1920年代から製造された(今も造り続けられているらしい)モーターホームの歴史と成り立ちが詳細に記されている。これが滅法面白くて、カメラのことも忘れて読み耽ってしまった。

 思うに、クルマがアメリカ文化の象徴だった時代は、たぶんもう過ぎ去ってしまった。豊かさの幻想が生活の一部に溶け込んだ時点で、モノへの憧れやこだわりが消え失せてしまう。アメリカ人にはそういう性癖があると思うのは、こちらの思い過ごしだろうか。
 写真や写真機についても同様で、メーカーは大衆に普及させることには熱心だったけれど、カメラという道具そのものに耽溺するような人間には冷淡だった。だから米国製カメラが消えていった背景には、ドイツやイギリスのカメラ産業が立ちゆかなくなったのとは別の理由がある。それは欧州系メーカーのように「エレキを積んだカメラでは日本人に勝てない」という諦めではなく、また精密なものを安価に大量につくれないという事情でもなく、道具へのこだわりがないからである。

 緩やかな曲面で構成されたアンスコフレックス2のボディは、航空機の構造を思わせる、と前に書いた。それは銀色のモーターホームともおなじ成り立ちで、アルミ系の軽合金をふんだんに使って、軽くて丈夫な機械をつくるとこうなる、というお手本のようなものである。
 電気代の安いアメリカはアルミの精錬にとても有利で、この素材の使い方には昔から長けている。空気で膨らませたようなボディの曲面は、たんなるデザイン上の工夫というより、こうした方が面の張力を大きく取れて強度が出せるからだろう。ただし硬度そのものはあまり高くない(熱処理を加えたジュラルミンは高硬度だが高価で加工が難しい)ので、落としたりぶつけたりすると簡単に変形する。ドイツや日本製では面を折り曲げた部分が凹んだカメラをよく見かけるが、アンスコフレックス2はボディそのものが波打っていたりする。これもクルマによく似ている。

 レイモンド・ローウィがこのカメラをデザインするときに、まず念頭に置いたのは、たぶん「誰もが簡単に使える道具」をつくることだったと思う。それはアンスコ社のリクエストでもあった筈だけど、ボディの軽さというのは操作の簡便さとおなじくらいに、移動する道具の大衆化に重要な要素である。
 だから作動の精度とか耐久性とか、そういうありふれた進化とは別の方向を目指してつくられたことに、このカメラの価値はある。それは陽光にまばゆく輝く飛行機やモーターホームと、まったくおなじコンセプトでつくられたのだ。


制作協力:山城優子


※注:エアストリームの書籍は「Airstream: The History of the Land Yacht」Bryan Burkhart/ David Hunt著、2000年Chronicle Books刊。素晴らしい本です。


※東京レトロフォーカス『贅沢な写真機』篇を最初から読みたい方は・・・
   →こちら 



2007年12月05日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部