* 連載フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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往年のパンケーキレンズによるハレ描写。真冬とはいえ正午過ぎの太陽はそれなりの高さにある。装着したフードの有効長は3センチほど。本気でハレ切りをするならもっと深いフードが必要だが、こういう条件でコントラストが欲しい場合は現代のレンズを使うべき。
Konica Acom-1 + Hexanon AR40mmF1.8 / FUJICOLOR REALA ACE
(C)Keita NAKAYAMA



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フレアの出具合はファインダーを注視すれば確認できる。とはいえカメラ位置を動かせば出方も変わるので、人物を取り巻くようなハレ効果はけっこう難しい。この写真はフレアの境目が顔にかかってしまった(作者はあまり気にしていません)。
Konica Acom-1 + Hexanon AR40mmF1.8 / FUJICOLOR REALA ACE
(C)Keita NAKAYAMA



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1976年発売、海外ではAutoreflex TCの名で売られたコニカ・Acom-1。それまでベテラン向けの機種が多かった国産一眼レフに「ファミリー向け」というジャンルを拓いた機種で、広告宣伝に有名タレントを起用し販売面でも成功を収めた。画像の個体はメーカー刻印が旧ロゴの初期型。軍艦部にエンジニアリング・プラスチックの一体成型品を採用(後期型は底板も同素材だ)するなど意欲的な設計が目を惹く。レンズは79年発売のAR40ミリF1.8、愛らしい外観と絞り開放付近の軟調描写で今も人気が高い。
(C)Keita NAKAYAMA

『SLRとの対話 #3』

 国産一眼レフのことを書くと決めてから、趣味の散歩写真もずっとSLRで撮っている。それまでお供はコンパクトなレンジファインダー機が多かったので、違和感が薄れるまでにずいぶんと時間がかかった。いまさらこんなことを書くのも妙だけど、SLRとは特殊なカメラだとつくづく思う。
 僕がこの種のカメラに抱く異物感というのは、たぶんカタチから来るものである。特に軍艦部に張り出した三角のでっぱり。ペンタプリズムを収容するあの部分が、道具として主張が強すぎる気がするのだ。その昔に偉い写真家があるカメラを「ペンタ部の尖りが亡者の角帽子(すんぼうし)のようだ」と評したそうだが、なるほど、と思う。
 もうひとつの気になるでっぱりは、他ならぬレンズである。SLRの場合はミラーを避ける必要から、マウント面がボディからせり出している、のはやむを得ないとして、レンズを包む鏡胴もなにやらメタボリック気味だ。レンジファインダー機のスリムな鏡胴(ファインダー視野のケラレを防ぐためだ)に慣れた身としては、「お前、重ね着でもしてるのか」と問い質したくなる。撮り手が厚着をするこの季節、できればカメラはスリムであってほしい。
 そこで冬物をあつらえるつもりで、なるべくでっぱりの少ない機種を探してみた。選んだのはコニカの中級機、というよりご家庭向け一眼レフのはしり、みたいな「Acom-1」である。素直に発音すると写真とは無関係な企業名が浮かぶけど、これは「エイコムワン」と読ませる。まあ、今ならまずやらないネーミングだろう。
 ボディサイズは確かに小振りではあるが、手元にある機種で比べるとニコンのFE2とほとんどいっしょ。ただしペンタ部の頂点は平らになっているし、前後の奥行きは5ミリ以上も短くて、これにパンケーキと呼ばれる薄型のレンズを付けるとコートの下にも何とか収まる。たかだか数ミリというなかれ、カメラのような道具ではそのわずかな差が体感として効いてくるものなのだ。
 とはいえこの厚みの差、実は持ち歩きの収まりだけでなく、もっと重要な意味がある。そう、フランジバックだ。

 昔のSLRを並べて見ると、カメラメーカー各社の考え方が分かって面白い。それは基本設計によく現れていて、特にボディの厚みには光学設計者と機械技術者が綱引きをした様子が垣間見える。フランジバックとは「レンズ交換式カメラのマウント面からフィルム面までの距離」を指す用語で、この数値が短い方がボディは薄くでき、またレンズ設計の自由度が増す*。だがボディの内部に可動ミラーを持つSLRの場合、この距離は無闇に詰められない。適切なサイズを持つミラーが円弧を描いて動く軌跡は、画面サイズに対してほぼ一定だからである。
 ライカ判の画面サイズを持つSLRのフランジバックを調べてみると、その数値は約40ミリ〜47ミリの間で散らばっている。もっとも多いのは44ミリ前後で、たぶんこのあたりが設計現場の妥協点なのだろう。数値がもっとも大きいのはライカR(ライカフレックス)マウント、次いでニコンのFマウントが来る。どちらも設計には手堅さを旨とするメーカーだ。
 いっぽうこの数値をぎりぎりまで詰めて来たのが、コニカ、ミランダ、そしてキヤノン(EOS以前のMFマウント群)などである。それぞれに「攻めの設計」をした背景には、レンズ性能を追求する光学技術者の発言力と野心が見え隠れするのだが、それにしてもコニカのフランジバックは群を抜いて短い。ニコンのマウント面を6ミリも後退させたら、上昇するミラーがレンズに衝突するだろう。
 実はこのカメラ、ミラーの後端を支点とする通常の方式ではなく、支点を後ろに下げながら上昇させる「スイングアップ」という方式を採用している(これは他社製品にも採用例がある)。その動作はシャッターをバルブにしてレリーズボタンから指を離し、降りてくるミラーを指先で軽く支えてみるとよく分かるのだけど、たかだか数ミリのマージンを稼ぐために、ずいぶん回りくどい、いや失礼、たいへんな苦労をしている。それもこれも、ひとえにレンズのためである。
 コンピュータによる高速演算が使えなかった時代、技術者たちは知恵を寄せ合い「SLRの限界」に挑んでいたのだった。


*制作協力:脊山麻理子


*注:フランジバック(メカニカルバックとも言う)はレンズ設計と密接な関係がある。標準〜広角系のレンズで伝統的に用いられてきた「前後対象」の設計はレンズ後群がミラーと干渉しやすく、特に広角系では「レトロフォーカス」と呼ばれる前後非対称の配置でないと設計そのものが成り立たない。ただしこれはSLRの場合のみで、レンジファインダー機などではレンズを「ボディ内部に押し込む」ことでフランジバックに依存せずに自由な設計ができる。またレンズ設計はフランジバックだけでなくマウントの内径によっても制限を受ける。いずれにせよ非球面レンズや?屈折ガラス、そしてコンピュータ支援設計を自在に駆使できる現代の製品では、マウント規格の制約はレンズ性能とあまり関係なくなってきている。


2008年03月05日掲載

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