* 連載フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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今月は連続写真をどうぞ。
Konica Acom-1 + Hexanon AR40mmF1.8 / FUJIFILM Neopan100ACROS
(C)Keita NAKAYAMA



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Konica Acom-1 + Hexanon AR40mmF1.8 / FUJIFILM Neopan100ACROS
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Konica Acom-1 + Hexanon AR40mmF1.8 / FUJIFILM Neopan100ACROS
(C)Keita NAKAYAMA

『SLRとの対話 #8』

 前々回に引き続き、レンズの話を書きたくなった。さいきん使っているある製品に興味を惹かれたからである。
 ダブルガウス、というレンズ構成がある。愛好家なら先刻ご存知と思うけど、これはドイツの数学者カール・フリードリッヒ・ガウスの設計理論を発展させたもの*で、ちょうど真っ二つに縦割りしたタマネギ(この的確な表現をされたのは竹田正一郎さんだったと思う)みたいに、何枚ものレンズが前後対称に配置される。レンズ設計の教科書の5ページ目くらいに出てきそうな、シンプルにして明解な設計だ。
 って何が明解かというと、前群で発生した収差を相似形の後群で打ち消すという、単純な足し算と引き算だけで解が求められそうな設計だからである。この構成は広角から望遠まで、いろんな画角で用いられている。でもダブルガウスがもっとも多用されるのは標準レンズで、これは前後のパワー配分(前群と後群の屈折率の差)がほぼ等しく、このタマネギ形の美質を無理なく引き出せるためらしい。
 もちろん標準レンズでも実際には完全な対称形が難しく、特にSLR用のレンズではちょっとした工夫が必要になる。なぜかというと、レンズとフィルム面の間に可動式の反射ミラーが入るからだ。このミラーが描く円弧を避けると、ダブルガウス構成のレンズは標準レンズの理想的な位置よりも、ほんのちょっぴり前に出てしまう。これは構成枚数の多いダブルガウスでは、レンズの前後長が長くなるためで、初期のSLR用レンズでは焦点距離をすこし延長し、58ミリや55ミリとする標準レンズが多かった。
 もちろん別の解決法として、レンズの前後長が短い構成を採ることもできる。それにはテッサーという構成が好適で、これなら写真家が慣れ親しんだ50ミリ(ライカが普及させた標準レンズの基準焦点距離)が無理なく実現する。でもテッサーは原理的に大口径化が難しく、性能を保つにはF2.8あたりにとどめておかなければならない。現代のレンズとしては特に暗い印象もないけれど、初期のSLRはファインダースクリーンの性能が低いから、ニハチの開放値では視野が暗くピント合わせに支障が出る。これではSLRの普及(当時の主流はレンジファインダー機だった)はむつかしい。
 そこで光学技術者は、競ってダブルガウス形の開発を進めることになる。先に記したタマネギ形の美質とは、前後対称に由来する素直な描写性能に加え、レンズを無理なく大口径化できることにある。大戦直後に58ミリからはじまった焦点距離(カールツァイス・イエナが開発したビオターが端緒)は徐々に短縮され、60年代には50ミリでF2やF1.4という製品も普及しはじめた。
 それらの製品がミラーを避けながらどうやって短焦点化を果たしたのかといえば、レンズの後群に接合レンズを採用したり、エレメントを一枚増やしたりして、前後の対称性を崩すことで主点と焦点の距離を縮めたのである**。こういう設計を「変形ガウス構成」と呼ぶのだけど、現代のタマネギはほとんどが前後非対称の変形ガウスだそうだ。

 さて、このタマネギをさらに品種改良すれば、もっと焦点距離の短いレンズ、視野が明るく描写も素直な広角レンズがつくれるのではないか。たぶん多くの写真愛好家がそう考えたはずだけど、これはなかなか実現しなかった。すこし専門的な話をすれば、変形ガウスとは前後のパワー配分に差を付け、そこで生じた収差を主に後群で補正するやり方で成立している。焦点距離が短くなるほど前後の差は大きくなり、収差補正はむつかしくなる。ごくさいきんのコンピュータ支援設計や非球面レンズ、高屈折ガラスなどをもちいたレンズでも、変形ガウスで50ミリを切る焦点距離のレンズは数えるほどしかない。技術が未成熟な時代に、そんなレンズがつくれただろうか。
 それをやってみせたメーカーが、日本のコニカだった。彼らが70年代後半に開発したあるレンズは、変形ガウス構成で焦点距離40ミリ、開放値F1.8を実現したのだ。ガウス形のSLR用レンズとしてこの焦点距離でこの明るさは、未だにレコードホルダーである。いったいどうやってこのスペックを実現したのか、その話は次回で。


※制作協力:脊山麻理子


*注1:ガウスのレンズ設計は写真術が発明される以前の、19世紀初頭に天体観測用望遠レンズの設計理論として提出された。実際にガウスがその理論でレンズを製作した事実は無いようだが、ほぼ一世紀後に写真用レンズとして転生、これはガウスの構成を前後対称に二組使う(=ダブルガウス)ことで収差補正を実現したもので、開発者は独カール・ツァイスのパウル・ルドルフ。そのレンズは「プラナー」と命名された。

**注2:主点とはレンズの光学的な中心点を指す(複数のエレメントから成るレンズを一枚の仮想レンズに置き換えた中心)。この主点と焦点=結像面の間隔が焦点距離となる。


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写真・文/中山慶太
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2008年06月04日掲載

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