* 連載フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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4月の街角、夕暮れ、連載初登場のズームにはかなり厳しい条件で、絞り開放ではシャープネスもコントラストも不足気味。焦点距離35mm。
Contax RX + Yashica ML ZOOM 35-70mmF3.5 / FUJICOLOR REALA ACE
(C)Keita NAKAYAMA



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こちらは単焦点レンズで。曇天の夕刻でもトーンはきちんと出ている。
Contax RX + Yashica ML 35mmF2.8 / FUJICOLOR REALA ACE
(C)Keita NAKAYAMA



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上とおなじ条件でズームの広角端を使って撮る。画面全体がハレっぽくヌケが悪いのは古典ズームに共通した弱点。それを絵づくりに活かす方法を考えよう。
Contax RX + Yashica ML ZOOM 35-70mmF3.5 / FUJICOLOR REALA ACE
(C)Keita NAKAYAMA

『SLRとの対話 #10』

 そういえば、ズームレンズのことを忘れていた。
 べつだん「それでは撮らない」と決めているわけではない。この連載以外の、他の仕事ではしょっちゅう使っているし、取材用のカメラには広角ズームが付けっぱなしだ。
 その広角ズームをはじめて使ったのは、あれはもう十何年も前のことだけど、あのダイナミックな画角変化には心底感動した。まあお値段もかなり感動的だったので、その効果もあったかもしれない。今ではあれを超えるスペックのレンズが、さらに画質向上して何分の一のプライス。技術の進歩とはおそろしくも有り難いものである。

 そのズームレンズ、さいきんではほとんどのカメラに標準装着されている。SLRの広告やカタログを眺めてみれば、いぜんだったら商品写真は必ず標準レンズが付けられていたものだが、今は標準ズームがこれに変わっている。その昔に写真家の間でよく交わされた「ズームレンズの是非論争」みたいなものも、とんと聞かれなくなった。
 それくらいに便利で有用なズームレンズだけど、僕のような古典写真機愛好家の間ではあまり話題に上らない。これはなぜかというと、この方式のレンズが発展した経緯が尾を引いているらしい。ズームそのものの概念は十九世紀の末くらいからあって、それが実用化されたのが二十世紀の前半、主たる用途は映画撮影用だった。
 つまりズームレンズの技術とは米国の専売特許みたいなものであって、由緒正しきドイツ製品とは出自が異なる。じっさいにこのレンズをはじめてスチルカメラ用に積んだのは独フォクトレンダー社だったのだけど、1959年に発売された「ベッサマチック」用のズームレンズは米ズーマー社謹製である。
 あいにく僕はそのベッサマチックも、ズーマーのレンズ(焦点距離は36-82mm、口径比F2.8)も触った経験がない。だから実機の作例写真で描写特性を判断するしかないのだけど、これはもう諸収差満載、まるで単玉時代に逆戻りしたようなローテク風味の素敵な描写である。映画では目立たない欠点もスチル写真ではもろに目に付くためで、しかもスチル写真では画角変化の過程は(露光間ズーミングみたいな特殊技を除けば)出力されない。今よりもずっとスローなテンポで写真が撮られていた時代には、ズームレンズのサイズと重量と価格の引き替えに得られる利便性もさほど魅力がなく、1960年代の旧大陸ではこの種のレンズに本腰を入れて開発するメーカーも現れなかった。

 欧州でのズームレンズ普及を妨げたもうひとつの要因として、これが当初は一眼レフ用に特化された技術だった、ということがある。60年代も初頭あたりといえば、写真機の主流はライカをはじめとするレンジファインダー機。ご存知のようにこの方式はズームレンズと相性が悪い。もし当時のユーザーがズームの利便性を求めたとしても、ファインダーを変倍にする苦労は想像するに余りあるし、光学性能を犠牲にするカメラの開発など、たぶん誰もやりたがらなかっただろう。
 その隙をついて、というわけではないにせよ、ズームレンズの開発でイニシアチブを取ったのが日本のカメラメーカーだった。当時の日本はSLRの開発で世界をリードしつつあり、その製品群は特に報道写真の分野で重用されはじめていた。そういう分野であれば、単焦点ほどの描写性能が望めないズームレンズにも立派な必然性がある。こうしてはじまった「真に実用に足るスチル写真用ズーム」の開発は、しかし相当な困難の連続であったらしい。何しろ当時は今と違って、複雑きわまるズームレンズの設計にコンピュータを使えなかったのだ。


※制作協力:脊山麻理子



2008年07月02日掲載

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