* 連載フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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斜光線で、画面手前が日影に入るのを待って撮る。被写界深度は「手前に浅く奥に深い」。こういう効果をファインダーで確認できるのがSLRの美質だ。
Konica Acom-1 + Hexanon AR28mmF3.5 / FUJICOLOR REALA ACE
(C)Keita NAKAYAMA




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絞りを開けば背景は形を失い現実感も消失する。リアリティが失われた世界に何が残るか、そこが悩みどころ。
Konica Acom-1 + Hexanon AR50mmF1.7 / FUJICOLOR REALA ACE
(C)Keita NAKAYAMA




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日没間際の光で。いっけん凡庸なスペックのレンズだが1メートルまで寄れる。絞り開放での微妙なトーン再現、ピント面の解像感、そしてアウトフォーカス面の素直な描写は出色。
Konica Acom-1 + Hexanon AR135mmF3.2 / FUJICOLOR REALA ACE
(C)Keita NAKAYAMA


『SLRとの対話 #17』

 70年代の国産SLRを今の目で眺めれば、そこにはふたつのおおきな流れが見えてくる。小型化と低価格化である。
 前者はオリンパスOM-1(1972年:発売時の機種名は「M-1」)が先鞭を著けた。後者は「どれがさいしょ」の見きわめがむつかしいけれど、76年に発売されたいくつかの機種(キヤノンAE-1、ペンタックスME、ミノルタXE-b、フジカST-605、コニカAcom-1など)は、ドル不安とオイルショック後の需要の冷え込みに対して打たれたカンフル剤であることは明らかだ。
 こうした機種の発売により、それまでプロ御用達のイメージが強かったSLRは「誰もが気軽に扱える」カメラとなった。製品は小さく安価になっても、従来のシステム性や高機能イメージを損なわないよう、各社それぞれに工夫を凝らしていたので、この時代のSLRに安っぽさを感じることはあまりない。手軽に買えてよく写る、そういう道具のどこがいけないのかって?

 この連載で何度もしつこく書いてきたことだけど、SLRとはそもそもが「机上の理想論」的なカメラである。撮影レンズを通した光で撮影視野を確認できる、だから長焦点レンズのピント精度は高く、絞りの効果もはっきり分かる。それはいい。でもそれと引き替えに、騒々しいレリーズ音やミラー/シャッターショック、像の消失などの問題をかかえてきた。最初期のSLRはこうした欠点がまったく克服されておらず、だから用途も(欠点があまり問題とならない)報道や学術研究向けに過ぎなかった。
 そういう欠点だらけのシステムに少しずつ改良を加え、普通の写真愛好家が使える道具にまで高めたのは、他ならぬ日本のメーカーである。この点はおおいに評価されるべきだ。
 でも70年代のSLRは、まだまだ克服し切れていない欠点を多く持っていた。未成熟な縦走り金属膜シャッターのような、欠点を助長する機構を小型軽量機に搭載するメーカーもあったのだ。これはスローシャッターは手持ちで切るな、ということか、または「暗くなったらストロボで」がお約束だったのか。たしかにストロボは有用かもしれないが、それは問題のすり替えだ。
 もちろん、SLRの低価格化によって恩恵を受けた写真愛好家も多いに違いない。特にネイチャー写真を撮る方々には、この種のカメラの普及は福音だったはずである。ただしその一方で、カメラメーカーは静粛で控えめなレンズシャッター付きの距離計連動機を隅に追いやり、騒々しく仰々しいSLRの開発に経営資源を集中させてしまった。その背景にはいろいろ事情があるのだろうが、やはりドルとオイルのダブルパンチが効いているはずだ。
 結果として日本のライカ判カメラは「SLRとお手頃コンパクト機の二本立て」という時代が到来した。これはかなり偏った流れではあったけれど、終身雇用に支えられた中流意識を持つ良き家庭人は、特に疑問を持つこともなくSLRを購入し、やがてそのSLRを手がけるメーカーも淘汰されていく。
 70年代カメラの流れを変えたのは、そこに疑問を抱かなかった一億総中流の意識だった、というのが僕の偏った見方である。

 さて、例によって長々と記してきたこの特集も今回でひと区切り。はじめから文句ばかり書いて終わるみたいで恐縮だけれど、これはたぶん「父親の世代に対する苦言」みたいなものだろう。僕らにとって70年代のSLRは、あまりにも身近で客観視がむつかしい。勤勉で実直な人柄を認めるほど、どこかで無茶な突っ込みを入れたくなる。
 でも最後にひとつだけ書いておくと、このカメラたちと付き合った1年弱の間、撮った写真の出来にはとても満足している(当社比)。と、散々貶してそういうオチを付けるとなんだか弔辞みたいだけれど、そんなつもりはさらさらない。カメラたちにはまだまだ現役で働いてもらうつもりだからだ。


制作協力:クニトウマユミ


2008年10月15日掲載

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