* 連載フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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エタレータの故郷、プラハにて。
Leica M3 + Elmarit 28mmF2.8 / FUJIFILM Neopan100ACROS
(C)Keita NAKAYAMA




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軽合金の工芸品、エタレータ。写真では大柄に見えるが現物はかなりコンパクト(ボディ本体の外寸=横幅114mm×天地70mm×厚さ30mm)。レンズは沈胴式で、撮影時には黒の円筒部分から前側を15mm引き出して使う。外装意匠は単純な平面と真円の組み合わせ。繊細な筆記体のモデル銘と対称の位置に原産国表記/シリアルナンバーを配し、デザインの一部としたところに設計者の卓越したセンスが伺える。軍艦部天面のふたつの円はスプロケット解除ボタンとフィルムカウンター。シャッターチャージとレリーズはレンズ側のレバーで行う。セルフコックの不装備はシグネット35も同様だが、エタレータには二重露光防止の備えもない。 (C)Keita NAKAYAMA





『マゼモノ -mixture- #5』

 この連載をはじめて、ずいぶんいろんなカメラを手にしてきた。数でいえばこの世に存在する機種の「何百分の一」でしかないけれど、真っ当な写真好きの方から見れば、もう立派に変人の領域だろう。カメラなんて二台もあればじゅうぶんなのだ。
 そうはいっても、数をこなさなければ見えてこないものがある。これはたとえば、難しい数式をすらすら解けるようになるということではなくて、知らない国の言葉も長く耳にしていると単語の羅列が聴き取れるようになる、みたいなことである。意味は分からなくても、それで言葉のニュアンスは伝わる。勝手な思い込みかもしれない。でも理解はそこからだ。
 今回の特集で採り上げてきた二台のカメラ、米国コダック製の「シグネット」と「バンタムスペシャル」も、たぶん以前の僕だったら聞き逃してしまったような言葉をたくさん発している。その多くはデザイナーからのメッセージで、特にバンタムスペシャルは、口数はすくないけれどもひとつひとつの言葉に強い主張と深い含蓄がある。これは実機に触れるまでは想像もできなかった。あいにくカメラとしては事実上「機能しない」(使えるフィルムが現在では売られていない)物品だけど、それでも抗しがたい魅力がある。本物のデザインとは、まったく恐ろしいものだと思う。
 その二機種については、まだまだ書くことがたっぷりある。でもそれは少し先にして、今回はちょっと別の方向を眺めてみよう。時代はシグネットよりもすこし前、場所は中欧の古都プラハである。

 チェコ製(正確にはチェコスロヴァキア製)のカメラについては、この連載でも何度か書いてきた。中判の二眼レフ「フレクサレット」や135フィルムを使うコンパクトな「オペマ」は、個人的なお気に入りリストをつくれば必ず上位に置くはずだ。この国のカメラには、どこかモノクロ写真の陰影につながる不思議な魅力がある。
 ここに紹介する「エタレータ*」もまた、そういう陰日向を感じさせるカメラだと、この国のカメラが好きな人間はそう書きたいところだけれど、でもじつはちょっと雰囲気が違う。先のふたつの機種が文学的とすれば、こちらはもっと計算で割り切れそうな、言ってみれば理数系のカメラなのだ。

 エタレータの発売元は在プラハのエタ(ETA)。これはレンズの銘板に打たれた刻印にそう記されているだけで、じっさいの設計と製造をどこが手がけたのか、今の時点ではちょっと分からない。ただしモラヴィアのメオプタ社が関与していることは確かなようで、同社のサイトにもオペマやフレクサレットに並んでこのカメラが載っている。そちらの記述によれば、生産は1947年から翌年までの二年間。ずいぶんと短命だが生産量は多かったらしく、望めば今でもわりあい簡単に手に入る。
 謎の多い出自と違って、カメラそのものはいたってシンプルだ。ひじょうにコンパクトなボディには目測のファインダーとフィルム給送関連の仕掛けを、鏡胴にはレンズと絞りとシャッターをそれぞれ組み込んで、両者を合体させると写真が撮れる機械になる。沈胴する鏡胴とボディが連携する仕掛けはまったくないので、レリーズはレンズ側でしかできないし、二重露光を防ぐには使い手が順序立てて操作するしかない。大判カメラに近いといえば聞こえは良いけれど、まあいたって原始的なカメラである。
 そんなカメラのどこに魅力があるのか。いや、魅力を感じるひとはそう多くないかもしれない。でもこれは「ある種の人間には絶対に逆らえない」引力を持ったカメラであって、しかもその角張ったボディには、先の米国製カメラたちのことを読み解く手がかりも隠されているのだった。


*注:このカメラの名称に「エタレッタ」を当てている記事は多い。イタリア風に子供を親しげに呼ぶイメージだが子音字のtが重ならないため促音は入らない。といって「エタレタ」とローマ字読みをするのも色気に欠ける気がする。いぜん知り合ったチェコ人青年にスペルを示したところ、「レ」にアクセントを置いて少し伸ばすように発音してくれたので、本稿では「エタレータ」の表記とした。


2009年2月18日掲載

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