* 連載フォトエッセイ*

Classical Photo-gear Explorers 東京レトロフォーカス

  文・写真/中山慶太 --->Back Number


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順光で。コントラストはそこそこ出ているものの、ちょっとした露出の加減で色が転ぶ。やはりモノクロで愉しむべきレンズなのだろう。
ETA Etareta + Etar III 50mmF3.5 / FUJICOLOR REALA ACE
(C)Keita NAKAYAMA




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ほんとうはこういうトーンをイメージしていました。
Nikon FE2 + Arsenal Mir-24N 35mmF2 / FUJICOLOR REALA ACE
(C)Keita NAKAYAMA




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モダニズムの変容。上のバンタムスペシャルは幾何学をバウハウス的な文脈で読み解き、「完全なプロポーション」を目指したデザイン。デザイナーの意図はあますところなく具現化されているが、ここで達成された美はカメラとしての機能美とは別種のものになっている。エタレータはもっと明快な機能主義で、平面で被われたボディは打放しコンクリートの建築を思わせる。どの角度から眺めても異質なデザインの両機、しかしどちらにもコルビジェの影響が伺えるところが興味深い。
(C)Keita NAKAYAMA


『マゼモノ -mixture- #7』

 エタレータは「ジョウバン」のカメラである。ハワイアンセンターではない。定盤、つまり機械部品の設計や製造現場で使われる鋳鉄製の測定台だ。そんなもの見たことないゾ、という方は、金属でできた将棋盤を想像してみてください。
 ほんものの定盤というのは、精密な測定を行う必要から、置き台の部分を限りなく完全な平面に近づけてある。精度の高いもの(等級がある)では、表面の高低差を1マイクロメートル、つまり千分の一ミリ以内に収めてあるというからすごい。使い途もないのについ欲しくなる。枡目は切ってないので将棋は指せないけど、CDプレーヤーの置き台にいいんじゃないだろうか。

 そこまでシビアではないにしても、エタレータのボディの精密さもたいしたものだ。軍艦部や底面をちょっと磨いて物を映してみると、鏡像がほとんど歪まない。さらに本体と裏蓋の接合部は、閉じてしまうと段差も透き間もほとんど生じず、継ぎ目のない金属のカタマリのように見える*。まるでモノリスである。
「硬い金属で出来ているんだから、それくらいの精度はすぐに出せるだろう」そう、今の時代ではナノメートル単位のオーダーで金属を加工することだって、ごく普通におこなわれている。身近な例をあげれば、光学ディスクのピットなんかがそうだ。
 でも、金属を溶かして型に流し込んでカタチをつくる方法、つまりダイカストなどの鋳造製法の場合、仕上がり精度を高く保つのは今でもけっこう難しい。金属に限らず、あらゆる物質には熱で膨張する性質があるからだ。高温では体積は増し、温度が下がれば縮んでしまう。だから金型の精度を一定以上に引き上げても、それは製品に反映されない。
 もうひとつの問題として、型から抜きだした鋳造品は常温まで温度を下げても、まだ内部に歪みを宿しているということ。専門的には「内部応力が残る」というのだけど、これを取り除かないと寸法安定性が得られないのだ。
 では定盤のように厳密な精度を要求されるものはどうするのかというと、いったん温度を下げた後に再度過熱して歪みを取り除き、最終的な加工に回す。これは「アニール処理」(焼き鈍し)といって、カメラでいえば高級一眼レフのシャシーなどに必須の工程になっている。前にこの連載で「鋳造や射出成形などは同じカタチのものを大量に複製しやすい」と書いたけれど、精密なものをつくるのはなかなかたいへんなのだった。

 エタレータのアルミ合金製ボディが、どんな工程で加工されたか、それを正確に知るすべはない。でも製品を子細に観察すると、けっこういろんなことが見えてくる。
 たとえばこのカメラは、上からみると八角形をしている。つまり八つの平面に囲まれているわけで、軍艦部のパーツ(一体成型)は段付きの天面が三つ加わるので、合計で十一の平面が外部に露出する。熱処理工程を終えた後に、これらすべてを平滑に研ぎ出していくのは相当な手間がかかるはずだ。おまけに面と面が交わる稜線の部分には、すべて入念な面取り加工が施されている**。
 透き間なく閉じる裏蓋にしても、先の熱収縮の問題があるので、鋳造時にわずかにオーバーサイズの部品をつくって、それを現物合わせで削って仕上げなければならない。昔のランボルギーニ(ミウラやカウンタックの頃)のドアといっしょで、このカメラも別の個体の裏蓋を外して付けようとしても、まずぴったりとは嵌らないはずである。このカメラのいっけん定盤のような精密さは、じつはほとんど職人の手仕事によるものなのだ。

 先に紹介したコダック製の二機種と違って、エタレータは「詠み人知れずの名歌」みたいなカメラだ。誰がデザインしてどこの工場でつくられたのか、今のところ判然としない。でもひとつはっきりしているのは、このカメラに関わったひとたちが、自分たちが持っているアルミ合金の製造〜加工技術を、世に知らしめようとしていたことだ。

 ではなぜ彼らは失敗したのか。


制作協力:クニトウマユミ

*注1:エタレータを紹介する記事に「アルミブロックからの削り出し」という記述をよく見かける。「削り出し」という言葉の定義は曖昧なのであながち間違いとも言えないのだが、ボディの外装部品はすべて鋳造による成型品をマシニングで仕上げたもの(探せば必ず湯口の痕がみつかる)。

**注2:面白いのはこうした仕上げ加工に格差があることで、僕が所有する個体ではフィルム給送ノブで大半が隠れる「段付き」の天面と、その周囲の面取り部分にはバイト(研削工具の歯)の痕がはっきり残っている。生真面目なチェコ人のささやかな手抜きだろうか。


2009年3月18日掲載

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