* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number


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STUNT MAN with Flying Harnesses (front view)








Roll 13 人吊り その2 Ultraman

 さてなぜウエットスーツ相手だと吊りベルトの研究が進むのかということだった、これは「体にぴったりと張り付くウエットスーツはスーツアクターの体の線をはっきり出す」からに他ならない。
 ウルトラマンのスーツアクターはシルエットへの影響を極力避けるためTバックの極小サポーターしか身につけていない、つまり「パンツのラインですらバレかねない」のだ。

 ここへ丈夫な生地の吊りベルトを装着しようものならもうシルエットはガタガタである、パンツもバレる(しつこいな)くらいなのでいかにスリムでタイトな吊りベルトを開発したところで隠しおおせようはないのだがそれでも、大ロングショットでなければ使えないのかフルショットはいけるのか、手前に飛んで来るとしたらどこまで寄ってOKなのかは演出上重要な問題なのだ。

 さてこの「飛んでいる」カット、スーパーマンのように(ウルトラマンのように?)水平に吊る方式はその名の通り「水平吊り」と呼ばれる。

 吊り方はいくつかある、まずバランスを取って腰だけで吊り役者が自力で水平を保つ方法、これはピアノ線は2本で済むしシンプルだが役者の負担が大きい。
 重たい頭と足を背筋だけでひっぱり上げるからだ、鉄棒に腰で乗り体を反らせて水平に保つのと同じと言ったらそのつらさの一端は理解出来るだろう、1回1カットだけならまだしもカット数が多ければ体力的に保たない。

 次が胸とかかとで吊る方法だ、上よりまだマシだが今度は腰が落ちて逆エビになるのを腹筋で支えることになる。

 結局一番楽なのが胸と太股で吊る方法だ、これだと役者は力をほとんど入れずして水平を保っていられる、ウルトラマンの撮影で「今日は吊りの日」とかいうことになると、彼らは一日中吊られっぱなしになる(1カットごとに下には降ろしますよ)ので、これ以外はあり得ない。

 だったらそれでいけばいいじゃん、前の2つなんか最初から止めてさ、と思われるかもしれない、しかし太股は一番ベルトがバレやすいところなのだ、だからこれは「出来ればやめたい」という方法でもある、そこで我々はいろいろと考えてきた。

 普通「太股吊り」というと太股に布又は皮のベルトを巻き、ベルトの一端をピアノ線で吊り上げる、しかしこれではベルトが太股から浮いてしまう、これは強く絞めたからといってゼロになるものではない、結果浮いたベルトが衣装を持ち上げその部分がテントを貼ってしまう。

 「マトリックス」のメイキングを見ていたら、キアヌの「ネオ」と「エージェント」が吊られるカットで2人のズボンが盛大なテントになっていた、完成画面でそうなっていないところを見ると後処理で直した(「描いた」といって良いだろう)のだろうが、もうちょっとなんとか出来なかったの? というほどの仕掛けであった。

 ウルトラマンレベルでいえば後処理でシルエットを直してもらうなんてことは期待できない、だからわれわれの太股ベルトはテントゼロである。

 どんな方式かは企業秘密(誰が盗むんだ?)だが、ともあれ我々は太股ベルトに関しては世界で一番進んでいると豪語してしまおう、ハーネス全体に対しても少なくとも「バレない作り」に関しては進んでいると言って良いだろう、それもこれもウエットスーツのおかげなのである。

 吊りベルトにとっていかに「バレないか」が重要な要素であるかはご理解いただけただろうか? 前回クライミング/スカイダイビングのハーネスと同じ用途と言ったが実はこの要素のおかげで質的に違った部分が出来てしまっている、それは「つけているだけで苦しい」ということだ。
 先の2つはある程度余裕のある作りになっていて、つけているだけで締め付けられるということはない、しかし吊りベルトは体に密着する必要があるためキリキリと絞めて装着する、吊りベルトにも色々あるのだが紐で絞めるタイプのものはまんまコルセットだ。

 話は少し変わるが「まさかの友が真の友」と言う、あるいはとおりいっぺんのつきあいをしているとわからないことでも、極限状況に置かれると人はその本質が見えてくる、ということがある。

 「吊り」というのは役者にとって「苦しい、痛い、怖い」と3拍子揃った(局地的ながらも)一種の極限状態だ、操演部も役者を「苦しい、痛い、怖い」目に合わせているという自覚があるのでセンシティブになっている、するとそこでは実に容易に役者その人の本質が見えてくるものなのだ・・という話はまた来週。(続く)


2002年01月09日掲載

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