* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number


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カラビナともやい結びしたパワーロープ








Roll 14 人吊り その3 Actress

 怖くてとても名前は書けない大女優を吊ったことがある、大作映画の1カットのみ、ワンポイントリリーフで我々は呼ばれた、まあそんなことはよくあるのだが、声がかかったのが本番の前日で、どうやら「人を吊るには操演が必要だ」ということを誰も知らなかったらしい。

 大女優様はこれがお気に召さなかったらしいがこれはまあ当然だ、普通衣装合わせと一緒に吊りベルト合わせもやるべきだからだ(吊りベルトを下につけたら衣装のボタンがとまらなくなった、などということはよく起こる)

 とはいえ急な話で困っているのはこっちも同様だと言っているのに我々にクドクドと文句を言い、本番中はずーっと痛いの痒いの苦しいのと言いっぱなし、ついには気絶するフリまでしてくださった、絶対そんなわけねェと思う操演部は「役者やのー」(by 花の応援団)と思ったが(まあ役者なんだけどさ)現場は大騒ぎである。

 製作体制が悪いせいで私はこんなひどい目にあってますってアピールなんだろうけど、人をダシに使うんじゃない、操演部の腕が悪いようにしか見えないじゃないか!

 以来私も、その時一緒にいた助手もその大女優が嫌いになった、役者以外の仕事にも手を出し時に人格者面をして説教垂れたりしているが聞くに耐えない。

 比べて別の女優さんである、とあるSFアクション映画で彼女は一日中吊られるハメになった、これがつらいのは当然なので我々もそれなりに気を使ったつもりではあった、マメに降ろしたり、声をかけたり、でもいつ声をかけても「大丈夫」というので油断があったのかもしれない。
 長い一日が終わりついに吊りが終了して彼女の吊りベルトをはずした私はギョっとした、吊りベルトに体重がかかる股の付け根が青アザになっている、いやもう一部は青を通り越してドス黒く変色し見るも無惨な有様になっていたのだ、これが痛くないわけない。

 硬直している私に彼女は「大丈夫だから心配しないで」とにっこり笑うと操演部全員にねぎらいの言葉をかけて去っていった。

 我々は一発でまいってしまった、その場に居合わせた操演部は以来彼女の熱烈なファンである。
 実のところ私は彼女が歌手としてデビューした時からのファンであったのでファンの三乗くらいにはなった。

 彼女はその後の作品で何度か吊られることがあり、めぐり合わせと言うべきかそのほとんどを私が担当している。

 私も(ファンである助手も)最初の轍は踏むまいと固く心に誓っているので、彼女が大丈夫と言っても信用せずせっせと降ろす、吊った状態で監督やカメラマンが悩み始めると(吊ってみて始めて何か思いつくのか、役者をぶら下げたまま勉強会を始める輩がいるのだ)「どうしますか?、すぐいかないんだったら降ろしますよ」などと声をかける。

 どうしてもある程度吊ったままにしなければならないときは靴を下から手で持ち上げたり、肩に乗せて支えたりする(体重をちょっと逃がすだけでもずいぶんと股への負担が軽くなるのだ)まるで女王様にかしずく奴隷だ。
 他の誰にやれと言われてもイヤだがこの人のためなら進んでやってあげようという気になる、そういうものではないだろうか。

 まさかの時に人の本質が見えるという話をあと2回やりたい。(続く)


2002年01月16日掲載

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