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REGULATOR
(空気圧調整器)


* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number 




Roll 21 スプラッシュ

 「トラブルになりそうなことは見て見ぬ振り」が処世術となりつつある現代、捨てたもんではない事もある(人もいる)というお話。

 とある「超能力物」の映画で、サイコキネシスをあやつる暗殺者が離れたところから殺人を行うというシーンがあった、この暗殺者に念力放射された被害者は全身から血を吹き出して悶絶してしまうのである。

 渋谷は道玄坂の脇道(けっこうな繁華街である)私は細かい穴が一杯開いたナイロンチューブを役者の体に巻き付け衣装をその上につけさせた、チューブは圧力タンクにつながっており、タンクにはバケツ一杯ほどの血糊が入っている。

 本番、エアボンベからレギュレーターを通してタンクに高圧エアーが送り込まれ、エアーに押された血糊はチューブを通って役者の体から吹き出す、白いYシャツは一瞬で真っ赤に染まり、首筋、前合わせ、そしてスリットを入れてあった衣装のあちこちから血しぶきがあがりこれぞスプラッターという絵になった。

 何が起こっているかわからないけど迫力充分で、刃物で切った張ったをするわけではないのであまり生々しくなく、皮膚感覚に訴えるような残酷さのないSFらしいファンタジーな殺人シーンが仕上がったと私は自画自賛しているのだがそれは今回の本題ではない。

 撮影が終了すると全身血塗れの役者が残った、バケツ一杯の血糊をかぶったわけで「血が付いている」というレベルではない、全身赤くないところなどない。

 私は制作部にシャワーを使える場所を確保しておくよう依頼してあった、製作部が用意したのはラブホテル(東京ローカルな話題で申しわけないが)なにしろここは道玄坂、一歩裏に入れば円山町のラブホテル街なのだ。

 頭から毛布をかぶった役者は制作部に連れられて歩いてすぐというそのホテルに向かった。

 以下はその2人から聞いた話なのであるが、彼らがそのホテルに着き、事務所に声をかけキープした部屋に向かうためエレベーターを待っていたところ、降りてきた箱の中からアベックが出てきたのだそうな。

 ラブホテルで男2人連れというのも出来れば目をそらしたい状況であろう、そしてその一人は毛布をかぶっていて、見えている顔は真っ赤、毛布を押さえる手も真っ赤、下から見えるズボンのスソからは血が滴っているという異常な状況である(私なら飛んで逃げる)

 ところがそのアベックの片割れの彼は全身血塗れの毛布男に「君、血が出てるよ」と教えてくれたというのだ。

 2人はさんざん笑って、というか私も聞いてさんざん笑ってしまったのだが、笑っちゃいけないよね、隣人にごく普通の親切心を働かせてくれる人に会えたということ、世の中捨てたもんじゃないということに感謝しなくては。

 あるいはこれは幸せな人間(!)にこそ他人を思いやる余裕がある、ということを示唆するのかもしれないと思う(でも、あとで彼女に怒られていたりして)


2002年03月06日掲載

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