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制作部(だと思う、いや、よその撮影隊なんだけど)


* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number 




Roll 37 ロケーション スバルビル前

 新宿西口「スバルビル前」はロケ隊集合/出発のメッカである。

 車両十数台を連ねる超大作からワゴン車1台に機材からスタッフまで全てを乗せて出発する記録映画まで、毎日、時には10数組がここに集合する。

 そのためスバルビル前の道にはマイクロバス、トラック、ワゴン車(あるいは大物俳優様専用の高級自家用車など)が列をなし二重駐車になることも珍しくない(ハタ迷惑だ)地下街から上がってくるとあまりの車両の多さに「おおっと」となることもある「いったい俺様の組はどこかいな?」というわけだ。

 間違えやすそうに見えるがスタッフは皆顔見知りなので間違えようはない、顔が売れているほどの俳優なら車の前に陣取っている演出部、制作部がチェックするので間違うことはない、問題なのはその日限りで呼ばれた「仕出し」レベルの俳優だ。

 とはいえ間違えかねない状況であるのはあきらかなだけに皆注意する、間違いは「こんなことで間違えるわけない」と思うところで起こるものだろう、出発前には「積み残し」がないか確認するのでまず間違えはない・・・はずだったのだが。

 彼はそこがロケ隊のメッカであることを知らず、彼に仕事を入れた人間もそのことを教えなかったのだろう、そしてたぶん地下街から出て一番始めに目に付いたマイクロバスに乗ってしまったのだ、で運悪く誰のチェックもうけず、なぜか出発前の確認も素通りしてしまったというわけだ。

 ロケ隊は青梅街道をひた走り、やがて奥多摩山中にわけ入った、ここで初めて彼は自分が場違いであることに気づき、周りに問いただして間違いに気づいた、そう思って見れば彼は背広にネクタイ、若いサラリーマン風に作ってある、この「戦隊ヒーロー物」に出番があるとは思えない。

 降りて電車で戻りますと悲壮な顔で言う(あたりまえの反応ですな)彼に向かって車両部が言う事には、山道を数キロ走っているので最寄りの駅まで歩いたら3時間はかかる、バスはない、電車もこのローカルな(んです)青梅線からだと新宿まで2時間近くかかる、どこに行くにしてももう遅いんじゃない? ということだった。

 今ならともかく携帯で、となるのだろうがこれは今から10年以上前の話、そんな文明の利器は誰も持ち合わせていない(お金持ちが肩掛け式の「移動電話」を持っていたころだ)けっきょく彼は一日中ロケバスの片隅で小さくなっていた(昼にはロケ弁ももらい、恐縮しながら食べていた)

 1日の撮影が終わり、夕闇ようやく迫るころロケ隊は新宿に戻り、彼は蹌踉として雑踏に消えた。

 いったいに彼は仕出しのバイト君だったのかそれとも役者の卵だったのか、なんにしても以後「身の置きどころがない」という芝居だけはうまくなったことと思う。


2002年07月03日掲載

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