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白煙師


* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number 




Roll 44 中国ロケ 歓迎光臨

 上海近郊に「大観園」という唐の時代の街を再現した観光施設がある「日光江戸村」とか「長崎オランダ村」のようなものだ。

 ここで撮るべきいくつかのシーンの中で特に重要なのが「長安の都」というものだ。
 当時の政治、経済、文化の中心であり三蔵法師の出発の地であるこの街が活気に満ち、人にあふれていただろうことは間違いない、大きな広場を市場という設定で飾りたてる装飾部や大勢のエキストラを当時の風俗にしたてあげなければならない衣装、結髪は大忙しである。

 操演部(と言っても私一人だが)もまた別の意味大変である。市であるからにはあちこちに食べ物屋が出ているはずで、その煮炊きの煙が立ち昇っていなくてはならないのだがスモークを持ち込むことが出来なかった。

 プロデューサーからは上海電影からプロを呼びますから大丈夫です、と言われていたのだがすでに現地雇いの助手を使っている各パートからは「中国側スタッフは働かない」という不満が出ていた、まあ日本人の方が働きすぎなんだろとは思うが心休まる話ではない。

 不安を抱えて迎えた現地助手であったがしかし彼らは本物のプロだった、2人来たそれは「白煙師」(パイエンスー)と呼ばれるスモーク専門家だったのだ。
 これはハリウッド並の分業制というべきで人吊りからモーションコントロールまでやる日方工作員特技操作係としては驚きである。

 モニター映像を見せ、ここは市場であるからあちこちから煮炊きの煙をあげて欲しい、ロングの絵であるので実際にそこに食べ物屋の屋台があるかどうかは関係なく、それらしい雰囲気があればOKである、街は画面の外にも広がっているので、煙は画面内だけでなく、そとから来た煙が画面内に入ってくるようにもして欲しい、などと説明する。

 ※通訳はこれだけの規模の撮影であるにもかかわらず2人しかいない。監督のそばに一人つきっきりになるのでフリーは一人しかおらず、操演部などには回ってこない、だからこれだけのことを「説明」するのも大変である。

 説明がすめばそこはさすがに専門家、どこにどう仕込めと指示するまでもなく画面を見ながら適当にスモークを置いていく、風の向きが変わればさっと位置を変える。

 感心したのは彼らがこれを薫製用のスモークチップでやっていることだ、成形されたチップを砕き半割りにした竹筒の中に帯のように並べて火を付ける、置いたチップの幅で発煙量を調整し、帯の長さで持続時間を調整する、こういう用途であるなら本番前に火を付けてまわらなければならないスモークよりよほど便利である、さすが白煙師!

 この長安の都の撮影は何日か続いたが、白煙師達は毎日時間通りに来て、出番がなくてもどっかにいっちゃうことはなく(他のパートではその辺も問題になっていた)終始キチンと仕事をこなしてくれた。

 上海を離れるとき彼らにお礼を言い、そのスモークチップは良いアイデアだと言うとおみやげに何個かくれた(!)
 アメリカ製であるそれは彼らにとって安いものではないと思ったが「役にたてて嬉しい」と言う意思表示であろうと思ったので有り難く受け取った、他のパートのことは知らぬがすくなくとも彼らは間違いなく映画のプロであった。


2002年08月28日掲載

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