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そして幾度目かの煙


* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number 




Roll 53 天職

 アマチュア時代の映画製作の話を書いていたら小学校の時の人形劇を思いだした。

 我が小学校では年に一回学芸会というものがあって6年の時にクラスで人形劇をやったのだった、出しものは「ヘンゼルとグレーテル」プロが作った音楽とセリフと効果音入りのテープがありそれに合わせて人形を動かすという方式だ。

 5人一組に分かれそれぞれが指人形1体と舞台装置を作ることになり、私のグループは「粉屋のおじさん」と「魔女の家(の中)」の担当となった(このお話のどこに「粉屋」が出てくるのかまるで覚えていない、主役の兄妹と両親、魔女の5人以外必要ないように思うのだが)まあこの際粉屋はどうでもよくて、問題は魔女の「かまど」である、兄妹を焼いて喰うためのそれは恐怖の象徴であり、グレーテルの逆襲に使われる重要な舞台装置である。

「かまど」というものが理解できていなかった我が班は「火が燃えていて中に人が入れる場所」ということからこれを暖炉のようなものと思いこみそのようなものを造形した。

 グレーテルは魔女をこのかまどの中に放り込んで窮地を脱するのだがこれは要するに焼殺するということでありよくよく考えれば残酷なシーンである。

 そもそもこの童話は喰うに困った貧しいほうき職人の夫婦が子供を2度までも遺棄しに行くという重い話であり、しかも1回目は石を目印に子供が帰ってきてしまったので2回目は目印の石を拾いにいけないよう前日から閉じ込めておくというあまりに暗いお話である。
 このイントロはさすがに「お母さんにイチゴ摘みをたのまれた兄妹が森で道に迷って」というライトな(?)ものに変えられていたがこの「焼殺」はごまかしようもない。

 一計を案じたテープ制作会社はかまどに魔女がブチこまれた後に「パーン」という乾いた効果音を付けた。その後「魔法使いがパンクした」という勝利の歌(?)が始まるのでどうやら魔女は「パンク」したということにして生々しさを減じようという作戦らしかった・・・のだが。

 「そりゃ変だろう?」と私は思った。

 ここは観客に一気にカタルシス(という言葉はもちろん知らなかったが)を感じさせなければならない場面だ。
 しかし前もって「魔女は火にくべるとパンクする」という設定がなされているわけではないので音がした時点では観客には魔女が永遠に脅威ではなくなった(死んだ)と了解することは出来ない。

 かまどの中で倒れただけのようにも聞こえるしそれなら復活の可能性もある、勝利の踊り(!)を踊り始めたりせずにとっとと逃げ出す必要があるわけだ。

「魔女がここで完全に滅したということを表現しないと変じゃないの?」というのが私の考えであった(うるさい子供だ)

 ならばどうするか? セリフが固定なので「魔女がパンクしたわ、これでもう安心」などという説明セリフを入れるわけにはいかない、ありうるのは「パンク」を具体的に表現することぐらいである、そこで私は皆に諮って特殊効果を入れることにした。

 白いチョークの粉を集めてボール紙を丸めた筒に入れる、シーンが始まったらこの筒をくわえてかまどの後ろに待機し、魔女が転がり込んで来たあと「パーン」に合わせて息を吹いてかまどの口から爆煙が出るようにしたのだ。

 これによってさすがの魔女もタダでは済むまいという絵になった(はずである)、舞台のカーテン越しではあったが観客たる他クラスの生徒が息を呑む気配も感じられた、手応えアリと言ってよい。

 これが私の操演事始めである。


2002年11月06日掲載

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