* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number


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夕焼けは出そうにありません
「ガメラ 大怪獣空中決戦」
(C)大映/日本テレビ/博報堂/1995 より









Roll 63 緊急潜行

 瞬発力が無ければやっていけない、瞬発力だけでもダメだ。

「ガメラ−大怪獣空中決戦−」(95年 大映映画)では悪い怪獣ギャオス(人を喰う!)が倒壊した東京タワーの上に巣を作り東京を睥睨しているというシーンがある。

 ギャオスはあばれ回るわけではないが人間側には対抗手段がなく、人はなすすべもなく遠望するのみという設定である。この奇妙な静けさ、怖さを効果的に表現すべく樋口特撮監督が考えたのが「夕焼けをバックに声高く鳴く東京タワー上のギャオス」というカットだった。

 しかし夕焼けは自然現象である、撮りたい、出てくれ、といって出てくれるものではない。
 オープンセットに組まれたミニチュアの東京タワー上にワイヤー操作のギャオスをセットし、カメラ位置を決め芝居のテストをして待ちかまえたが夕焼けにならない。
 その日から毎日夕方になると「夕景狙い」として待ちかまえたが出ない、1日たち2日たち1週間が過ぎたが出ない。

 オープンセットは予定が詰まっている、早く次のシーン用に飾り変えないとスケジュールに深刻な影響が生ずるのだ、そのために10日以上は待てないと決定されたのだがその10日目「今日撮れなければあきらめて東京タワーはバラします」という当日だがその日はもう朝から曇りで「もうダメだ〜」と皆あきらめてセット撮影をしていた。

 夕景のことなどすっかり忘れて集中していたセットに「夕焼けが出ています!」と駆け込んできた奴がいる。
 何?! と外へ出て見ると西の空は燃えるような茜色、マットペインティングで描いてもこうは行かないというような雄大な雲の峰。ラストチャンスである「夕景だ! 皆外へでろ! 急げ!」となった、いつもなら5時の撮影に合わせて3時頃から準備する夕景狙いを今の今撮らねばならない、セットで撮影中のカットは放り出し全員狂気の様にオープンに急いだ。

 機材が一番多いのは照明部、撮影部だ、手あきの人間は皆ライトを担ぎ、三脚を持ち、電源コードを運んだ。(ウォルフガング・ペーターゼンの「Uボート」を観た方なら緊急潜行する時の乗り組み員の様だったと言えばおわかりいただけるだろうか)


 新人監督の樋口真嗣、そして平均年齢26才というやる気だけがたよりの経験不足なスタッフ達に映画の女神がほほえんでくれたのか、この夕焼けはそののち「怪獣映画史上もっとも美しいカット」と呼ばれるものとなった。


2003年01月22日掲載

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