* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number


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Roll 78 カチンコの4

 日本では監督の「よ〜い、スタート」という声で本番がスタートする。
 このかけ声は十人十色で「よ〜い、ハイ」の人もいるし「ハイ」がなまって「アイ」とか「エイ」とか言う監督もいるが、まあ「用意」と何かしらのかけ声という組み合わせは変わらない。

 そしてこの「よ〜い」で撮影助手がカメラのスイッチを入れ「ハイ」のあとでカチンコが打たれて芝居が始まるのだがこれは世界でも珍しい日本独自の方式だ。
 世界的に言えばまず監督(または助監督)の「カメラ」でカメラがスタートし、フィルムの回転を確認したカメラアシスタントが「ローリング」と復唱し、そこでカチンコがうたれ、カチンコが引っ込んだのを確認して初めて監督が「アクション」と言って芝居が始まる。

 カメラが回転を始めてから芝居が始まるまでをプリロールと言うのだがこう書いてもわかるとおりに世界共通方式とくらべて日本方式はこの部分が短い、これは日本映画の黎明期に貧しい日本の映画人がなるべくフィルムを倹約しようと始めた特殊な方式なのだ。

 しかしこの独自方式にはいろいろと問題がある、一番の問題はカチンコが芝居の合図であるにもかかわらず、その瞬間にはカチンコは(当然だが)画面に映っているということだ、つまりカチンコマンは打ち鳴らしたカチンコを可能な限り素早く画面から引き抜かねばならない。
 といってもちろんカチンコはシンクロ撮影の要である以上、拍子木が閉じた瞬間はかならず画面に、それも静止状態で入っていなくてはならない、気が急くとカチンコが動いて見えにくくなったり、フレームアウトしてしまったりする。

 そこで助監督は−駆けだしの頃は特に−ヒマになるとカチンコを打つ練習をしている。
 完璧なカチンコは微動だにせず、コマ送りで見ると「閉じて」「開いて」その次のコマにはもう画面から消え去っているのが良いなどと言われたりする。
 もはや匠の技と言ってよいのだが誰でもこなすようになるあたりが一億総職人気質であり器用貧乏な日本人らしいところだ。

 しかし、いつでも頭に気持ちよくカチンコを入れられるわけではない、というのが次回の話だ。


2003年05月14日掲載

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