写真
---> 拡大表示

Fire extinguisher of CO2


* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number 




Roll 127 Saving Japanese movie <Part-7 Fire-Stunt>

 ノルマンディー上陸作戦、地獄のオマハビーチを駆ける兵士の中には火炎放射器を背負っている者がいる。
 そして敵弾をうけ、背中の燃焼材に引火し、吹き出した炎に巻き込まれて数人が一気に火だるまになってしまうカットがある。
 あるいは船上で被弾したものか上陸用舟艇が丸ごと炎上し、火に包まれた人間が海岸につぎつぎと転がり出てくるというものもある。

 ヘタなアクション映画なら映画のクライマックスにも使えそうな危険で迫力充分なカットだがこの「プライベート・ライアン」ではこれが単なる背景なのだ。

 これが映画のクライマックスだというならわかる、入念に打ち合わせをし、現場に充分な安全策が取られたところでスタントマンが準備を開始する。
 耐熱スーツを身につけ、冷蔵庫で冷やしてあったスタントジェルを全身に塗りつけ、マスクをして衣装を身につける。
 監督以下スタッフ一同は緊張してスタントマンを待つ、何しろ塗りつけたスタントジェルが充分な低温を保っているうちに本番を行わなくてはならない、体温でジェルが暖まってしまえば1からやり直しなのだ。

 すべての段取りが整ったところへスタントマン登場、すぐに本番だ、全員注視のなかで彼は火だるまになる、「カット!」の声で消火器をもったスタッフがわらわらと駆け寄って消し止める、湧き起こる拍手、マスクをもぎとった彼は笑顔で答える、ヒーローだ。

 普通はそういうものだ、緊張こそするがスタッフ一同がそれに集中しているので間違いは起こりようもない。

 しかしこの映画では数人一気のファイヤースタントが「背景」なのだ、手前で主役が演技をし、その周囲ではやはり兵隊が走り、撃ち、撃たれ、爆発がそこかしこで起こっている。

 画面上のどの要素を取っても危険で手間で、仕込みに時間のかかるものばかりである、もちろんファイヤースタントにスタッフ全員集中というわけにはいかない、しかしやはりファイヤースタントがあるピンポイントな一瞬にしか可能にならない仕掛けであることは変わりない。

 無数のパートが無数の準備を進めるなか、いったいどうやってそのタイミングを計るのか?
 現場にどういう指揮監督系統が存在し、どのように情報が流れればそれが可能になるのか私には想像もつかない、専門家であるはずのチーフ助監督にも想像がつかないのだと思う。

 同じ映画を撮っているつもりでいるうちにハリウッド映画と邦画の間には乗り越えようもない深い断絶が出来てしまっているのかもしれない・・という話を次回にしてこの話題を終えよう。



※「プライベート・ライアン」(米国/1998年/UIP)


2004年05月19日掲載

<--Back     Next-->



Copyright :
マカロニ・アンモナイト編集部