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移動効果


* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number 




Roll 145 Viewpoint <17> Endroll

 押井守のアニメ『ビューティフル・ドリーマー』(1984年/東宝)は各方面に影響を与えた傑作だと私は思う、と前回書いた。
 そのエンドロールは映画の舞台、友引高校の正面2階のテラスから始まる。

 文化祭のあとしまつ(?)をしている人物達が校舎にひっこんだあとカメラが下にさがる、と彼らがトントンと金槌で固定していたものは『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』と描かれた看板だったことがわかる、それが友引高校の正面に掲げられているわけだ。

 そこからカメラは延々とトラックバックしていく。
 主題歌フルコーラスの間、ローリングタイトルが巻きあがっている後ろでカメラはタイトルが描かれた看板を画面中央に据えたまま、延々と引いて行く。
 人物のフルショットから始まってカメラは校庭を抜け、ついには校門の外まで出ていってしまう。その間約4分。
 エンドタイトルには印象的なものが多いが、その中でも特に秀逸なものだろう。

 しかしこのカットは相当ムリをしている。
 1枚の絵を延々とトラックバックしたように見せたいカットなわけだが、最初の人物を普通のセル画サイズで描いたら、校舎全景は縦何メートル、横何メートルの巨大な絵になってしまう、当然アニメの撮影台には乗らないし、カメラの引きしろもない。
 そもそも最初の人物がセル画である以上、画面すぐ上にはタップというセルを固定する金具があるわけで、大きな絵にすることは出来ない。

 結局縮尺の違う絵を何枚も描き、オーバーラップでつないで1カットに見せかけているわけだ。

 1枚目の絵の全体像が、2枚目の中央部分になるように(ディティールも合わせて)描く。1枚目の絵をトラックバックしていってこれ以上引けない(バレる)となる寸前に2枚目の絵の中央部分にすり替る、2枚目の絵のトラックバックにつないで、移動が継続しているように見せるのだ、これは難しい。
 結局このカットは4回のオーバーラップがあることがわかる、つまり5枚の絵だ、なぜわかるかと言えば合ってないからだ。

 今ならCGや、デジタル編集機を使ってどうとでもなるカットだろう。しかし全てをアナログで処理するしかなかった時代ではこれが限界だったのだと思う。
 完全主義者と思われる押井監督がなぜこのような無理の多いカットに挑んだのか、私は長いこと疑問に思っていた。

 すこし理解出来たような気がしたのはアニメ出身の樋口・ガメラ・真嗣特技監督と組んだ時のことである。
 演出上あまり意味のないカメラのトラックアップがあったので、何で? と聞いたところ、次のような答が返ってきた。
 「アニメは横移動は楽だけど、難しくて手間のかかる縦移動は御法度なんで、縦にカメラを動かせる実写だとつい動かしたくなるんだよね」と。

 なるほど、アニメの監督はカメラを前後に移動させたいものだったのだ!

 とすればあのカットの意味はわかる、要するにTVでは出来ない贅沢を映画でやってみたかったわけだ。
 監督は時に演出効果よりも何よりも、ウサ晴らしで撮影効果を選ぶこともあるんだなと、視点の移動について深読みしあれこれ注釈つけたがる私は思ったのであった。

視点の話、おわり。


2004年10月06日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部