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えんかいの群れ


* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number 




Roll 156 えんかい

 というわけで隠語の話だ。

 さてその1
 映画の現場では何かを台の上に乗せ、高さをかさ上げすることを「せっしゅする」と言う。
 これは俳優、早川雪舟(せっしゅう)に由来する。
 雪舟はハリウッドでも成功を納めた俳優であり、ルドルフ・ヴァレンチノやハンフリー・ボガードも彼に憧れて映画界入りしたとさえ言われる甘いマスクの2枚目だ。

 しかし残念ながら、われらが同胞である雪舟氏は背が高い方ではないため、アメリカ人俳優(とくに女優)と並ぶ時には台の上に乗って(もちろん足下はごまかして)演技をしていた。
 雪舟氏の乗る台で雪舟台、以後高さの足りない物を台の上に乗せ、かさあげすることを「せっしゅうする」と言うようになったというわけだ。

 つまって「せっしゅ」、今現場では早川雪舟の映画を観たことはおろか、その名を聞いたこともないような若いスタッフが、もちろんいわれ因縁などを知りもせず、「じゃあ、それせっしゅしてくれなどと使っている。

 その2
 カメラのフレーム内に映ってはならないものが入り込むことを「えんかい」と言う。
 えんかいしやすいのはライト足だ、撮影助手がハレーションを防ぐための黒い板(ハレ板)をライト足に固定し、フレームギリギリに置こうとするためだ。

 現場ではそのギリギリをさぐるため、カメラマンがファインダーを覗きつつ「いったんハレ板画面に入れてみよう、はい、入れて、入れて・・まだ・・まだ・・はいえんかい、ちょっと引っ込めて」などと、助手に指示を出したりしている。

 ではなぜ「えんかい」なのか、といえばそれは「宴会をするとアシが出る」からに他ならない。
 ほとんど判じものである。

 さてこれらの言葉は映画産業華やかなりし頃、蒲田行進曲な頃に作られたものばかりと言ってよい。
 せっしゅ、えんかいに限らず、現場では今やその語源も知らずに使われている言葉も多い。
しかし今、後世に残る言葉が生まれる瞬間に立ち会っている(のかもしれない)・・と言う話を次回にしよう。 


2004年12月22日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部