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* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number 




Roll 168 たのしいお買い物 その8「びっくり箱」

 下町にあるそのスプリング屋は、スプリングというより駄菓子屋と言ったほうが似合う木造の建物だった。

 そして入り口のガラス戸(2間、4枚の引き戸です、このあたりが駄菓子屋)を開けて驚いた。
 薄暗い店内はスプリングの山、天井から数多くのスプリングがぶらさがっているかと思えば、床に置かれた古ぼけた木の箱には無造作に雑多な種類のスプリングが放り込まれている。

 直径2〜30センチ、線形が私の親指ほどもあり、象でも乗らないと縮まないと思われるごっついスプリングがあるかとおもえば、ビックリ箱でピエロが飛び出すのに使えそうな繊細なものまで。

 スプリングにはなにも表記されておらず、そもそもなにかしらの規則に従って展示されているようでもない(そもそもこれを展示というならだ)

 まったきのカオス、それこそ駄菓子屋だ。要するに勝手に選べということらしい。
 ある意味私にとっては願ったりの方式ではあるのだが、これでプロの用に立つのか? と思ってみればしかし、作業衣を身にまとったそれらしい人達がスプリングを手に取ってはびょょ〜んとやってみている。へえ?

 設計ですべてが割り出される世界もどこかにあるのだろうが。その一方、手に取って押したり、引いたりして選ぶことが重要である仕事というものも確固として存在し、こういう店の存在が必要なのだろう。

 私も彼らに混ざって思う存分びょょ〜んとやって何本かを選びだした。
 店の奥の暗がりに、古本屋のオヤジのごとくに鎮座しているおっさんがいた。
 このオヤジにこのスプリングを差し出すと、どのようにか金額が決定される(※ブツには何も書いてない)
 支払いを済ますとオヤジはそれを新聞紙に包んで渡してくれた。

 時空の狭間に落ち込んだようなその店を出て私は思った、いつかまた来よう、と。


2005年03月23日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部