* 週刊フォトエッセイ*

「今日もカメラは回る」

  文・写真/根岸泉 --->Back Number


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星飛雄馬は穴あき50円玉を使ってましたね
大リーグボールを完成させるために









Roll 193 困ったちゃん その4 −催眠術−

 糸に結んだ5円玉を左右に振ってあなたは眠くな〜る、というのは古典的な催眠術のイメージである。

 それをネタにしたCMが企画された。絵はシンプルなもので、黒バックに5円玉が揺れていてカメラがトラックアップ(近づいていく)するだけだ。

 しかし問題がひとつあった、カメラはやがて5円玉の穴に近づき最後は穴の中に入ってしまうというのだ。

 今なら何のためらいもなくフルCGになるところだが、CGがそれほど発達していなかった当時これを実写で撮るということになった。
 カメラが5円玉の穴の中に入っていくということは少なくともレンズが5円玉の穴より小さくなくてはいけない。レンズを小さくすることは出来ないので5円玉を大きくすることになり、逆算して直径数十センチという巨大な5円玉が作られた。

 「糸」も当然作り物である、5円玉はカメラに対して平行を保ったまま揺れなくてはならないのでねじれが出るような材質では困るわけだ。よってこれを鉄の棒で作り5円玉にがっちりと固定した(周囲は糸に見せかけた作りもので覆ってある)
 スタジオ上部通路に軸受けを固定し、この鉄棒を差し込んで揺らすのが私の仕事である。

 いよいよ撮影当日、こちらは5円玉を適当な振り幅まで引き上げて離すだけ・・・だと思っていたら監督に注文を付けられた。1カットの中の5円玉が振れる回数が少ないと言う。

「もっと早く振ってくれ」
「・・・・・・(なんと言おうか考えている様子を示す)振り子ってのは糸の長さで周期が決まっていて、それを変えることは出来ないんですが」
「早く振れば早く動くだろう」
「あーうー」
「今みたいに手を離すんじゃなくって、力を入れて押し出せばいいんだ」
「すると振れ幅が大きくなるだけで、一回振れるのに要する時間は同じなんですよね」
「早く動けば早く戻ってくるだろう」
「あーうー」

 というわけで、勉強しなかったのか、忘れてしまったのか、この監督に振り子の原理を飲み込んでもらうにかなりの時間がかかった。

 更に・・という続きがあるのだがそれは次回に。


2005年10月05日掲載

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マカロニ・アンモナイト編集部